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分割トラブルで、“泥沼争族”に陥らないために…… 円満相続の“基礎知識” 【第2回】

前回は、相続対策の3つの柱である「分割」「納税」「節税」の基礎知識を押さえるとともに、中でも最も優先すべきは「分割」であることをご紹介しました。今回は、円満相続を実現するための押さえるべきポイントについても見ていきましょう。

記事作成日:2021年9月10日
記事公開日:2023年11月9日
記事改訂日:2023年11月9日

「いつか」ではなく「今すぐ」。それが成功の秘訣!

相続はいつ発生するか分かりません。不動産を多く保有しているオーナー様の場合には、対策を講じて効果が表れるまでに時間がかかりますから、特に相続対策は早ければ早いほどよいと言えます。

例えば、代々受け継いだ土地の場合、隣地との境界がはっきりしていないことがあります。境界がはっきりしていなければ面積がわかりませんので、相続が発生しても相続税の計算ができません。資産の組み換えを検討する際にも、境界がはっきりしていなければ売却ができません。

境界確認書がない場合には隣地の所有者と話し合いで決めることになります。誰しも「自分の土地を少しでも広くしたい」と考えますから交渉には時間がかかります。保有する土地の境界は、早めに確認しておくことが大切です。

また、賃貸経営をしている場合、建物が老朽化して収益性が悪くなっているケースもあるでしょう。キャッシュを利用して建て替えることで相続財産を減らしつつ、収益性を向上させる一挙両得の対策も考えられますが、それには入居者に立ち退いてもらわなければなりません。

入居者には住み続ける権利がありますから、立ち退きまでには時間がかかります。建て替えが終わるまでに相続が発生してしまうと十分な効果が得られませんので、この場合も早めの対策が必要となります。

さらに、相続対策は相続発生からさかのぼって3年以内に講じられたものは無効になる場合があります。例えば、3年以内に行われた贈与はなかったものとして相続財産に加算します(2024年1月1日以降の生前贈与については、生前贈与を相続財産に加算する期間が相続発生前7年間に伸長されます)。また、法人を設立して不動産を法人に移す方法も有効な相続対策ですが、法人の場合は相続発生前3年以内に取得した土地は評価が下がらないため、やはり早めの対策が必要です。

これは相続税の納付という観点からも同様です。相続税は現金での納付が原則ですが、不動産などを現金の代わりに納める「物納」を利用することもできます。ただし、土地を貸している場合には、地代を適正価格にしておかないと物納が利用できないことがあります。

長い間、貸地になっている土地の地代は安いままに放置されていることがあり、地代と固定資産税の額がほぼ同じでまったく収益が得られていない場合も多いのです。国税庁も収益性の低い土地は物納を受け入れてくれませんので、物納をする可能性がある場合は地代を適正な価格に引き上げておかなければなりません。土地を借りている人との交渉には時間がかかるので、早めに取りかかることが重要です。

また、本コラムの第1回でご紹介した「小規模宅地等の評価減の特例」も相続税の支払い期限である10ヵ月以内に遺産分割協議と相続税申告を済ませないと特例が受けられません。相続財産の中に複数の宅地等がある場合は、いずれの宅地等に特例を使うかなどを巡って意見が分かれ、10ヵ月を過ぎても遺産分割協議がまとまらないといった事態も考えられますので、やはり早めの対策が必要となります。

手間のかかる相続対策はついつい先延ばしにしがちです。しかし、十分な対策をとるには「いつかやろう」ではなく、「今すぐやる!」がなにより大切です。相続対策の大まかな流れを図表3に示しましたので、参考にしてみてください。

遺言書を残し、付言事項に想いを書き記す

もう1つ大切なのは、家族にどう資産を残すかを決めて遺言書をきちんと書いておくことです。遺言書があれば遺産分割協議が必要ないので相続人の負担を減らせますし、遺言書がないことによる“争族”も回避できます。

では、遺言書はどのような方式で残すのがよいのでしょう。本コラムの第1回で、遺言には一般に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式があるとご紹介しましたが、公正証書遺言を利用することをお勧めします。

公正証書遺言は、遺言を残す人が口頭で伝えた内容をもとに、公証人が遺言書をつくる方法です。遺言書の原本は公証人が管理するため、遺言書を誰かに隠されたり、書き換えられたりすることなく、遺言者の意思を確実に残すことができます。

遺言書を書く際は、「何人かの相続人に土地を共有で相続させる」「他の相続人の遺留分を侵害して、特定の相続人に全財産を相続させる」など“争族”の火種になるような分割は避け、親族全員が納得できる分割を目指したいものです。

また、遺言書には「付言事項」を書き添えることができます。法的効力はありませんが、どんな気持ちで資産の配分を決めたかなど、家族へのメッセージを残すことができるのです。例えば、長男など特定の相続人に資産を多く残したい場合は、遺言書の付言事項に「長男の嫁には介護の面倒をかけたから、長男には多めに資産を分けた」などの理由やご自身の想いを書いておきましょう。そうした理由や思いがわかることで、他の相続人も納得しやすくなります。

円満な相続をするために最も大切なのは、すべての相続人が「平等“感”」を有することです。これは必ずしも相続財産が平等でなければならないということではありません。相続財産に差があったとしても、なぜ差があるのか、相続人が十分に納得できる理由があればよいのです。

ぜひ親族の末永い幸せを祈りながら、遺言書の付言事項でご自身の想いを伝えてください。
その想いこそが円満な相続を実現するための最大の秘訣といえるでしょう。

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相続対策の基礎知識について、2回にわたってご紹介してきました。本サイトではこれからもオーナー様の資産経営に役立つさまざまな情報を発信してまいります。

なお、本コラムは三井不動産グループの資産経営情報誌「Let’s Plaza 2021年9月号」に掲載した記事を修正、改題したものです。「Let’s Plaza」(年3回発行)では資産経営に関する旬な話題や詳細な事例などを豊富に掲載しておりますので、ぜひ最新号よりご購読ください。

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1973年生まれ。1995年、成城大学経済学部卒業。同年、昭和産業株式会社入社。都内会計事務所、税理士法人青木会計勤務を経て、2005年に税理士試験合格。2006年、税理士登録。2013年、タクトコンサルティング入社。著書に『改正相続法・税制改正対応“守りから攻め”の事業承継対策Q&A』(ぎょうせい)、『事業承継を成功させる 基礎からわかる新認定医療法人制度』(清文社)がある。

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