資産活用

土地オーナーが、賃貸住宅事業において再び活路を開く方法

前回までの2回にわたり、賃貸住宅事業において、個人投資家の「アパマン投資」が、なぜ土地の所有者による「土地活用」に勝てるのか、その背景を探ってきました。結びとしての今回は、では、どうしたら土地のオーナーが賃貸住宅事業の中で生き残り、大切な資産を守ることができるのか、再びアドバンテージを取る方法をまとめます。

今回も、前回に引き続き、土地所有者による「土地活用」と、個人投資家による「アパマン投資」の比較をしていきます。

前回までのコラムでは、一見、土地を所有している土地オーナーによる「土地活用」の方が、土地を所有していない個人投資家による「アパマン投資」よりも有利に見えますが、実際には、次のような理由により、「アパマン投資」の方が「土地活用」よりも、うまくいっているケースが多いことを指摘しました。

(1)建物と併せて土地を購入する必要のある「アパマン投資」は、一見、土地の購入を必要としない「土地活用」よりも、利回り的に不利のように見えるが、中古物件を選んで投資すれば、利回り的にも「土地活用」に劣らないこと

(2)「アパマン投資」の最大の利点は投資物件を選べることであり、賃貸経営に適した立地に、自らの投資基準に合った物件だけを選んで投資することができること

(3)一般的な土地オーナーによる「土地活用」に比べ、「アパマン投資」には、賃貸経営ビジネスに対する事業主体の取り組み姿勢やマインドに関する優位点があること

(4)「アパマン投資」を行っている個人投資家の年齢層は、「土地活用」を行っている「土地オーナーよりもはるかに若く、これが、前述のような、「賃貸住宅ビジネス」に対する取り組み姿勢やマインドの違いを生み出す大きな要因となっていること

それでは、「土地活用」を行う土地オーナーが、「アパマン投資」を行う個人投資家に打ち勝つ方法はないのでしょうか。

もちろん、その方法はあります。それは、前回までのコラムで、土地オーナーの「土地活用」の欠点として指摘した事項を、土地オーナー自らが、克服していくことに他なりません。つまり、土地代まで含めた投資利回り、立地選定、賃貸経営ビジネスに対する事業主としての取り組み姿勢やマインド等について、土地オーナー自らが、「アパマン投資」の個人投資家と同じ観点から、自らの賃貸住宅事業を、経営者として見直していけるかどうかという点にかかっているのです。

具体的には、次のようなポイントを実行することが必要となるでしょう。

(1)賃貸住宅事業の目的を、単なる土地資産の保全や相続対策ではなく、事業としての収益獲得に焦点を合わせる

(2)土地オーナーとしての受身の経営ではなく、投資家の目線で賃貸住宅事業の事業性を客観的に判断し、経営者の覚悟を持って、賃貸住宅事業に取り組む

(3)建物投資の回収を持って事業性を判断するのではなく、土地を含めた投資利回りで、賃貸住宅事業の事業性を判断する

(4)上記(2)(3)から、自分の所有する土地についても、立地性を客観的に判断し、賃貸住宅事業を実施するのに総合的に適していない土地については、他のより適した土地活用を行うか、あるいは、売却して、賃貸住宅事業に適した投資案件に組み替える

(5)賃貸住宅事業を人任せにせず、経営者の感覚を持って、常に市場動向やニーズの変化に気を配り、新しい知識や経営ノウハウを習得するとともに、賃貸住宅事業に係る信頼できる専門家のサポートを得ながら、適切な再投資を行い、賃貸住宅事業を改善していく

(6)土地オーナーに後継者がいる場合には、早期に賃貸住宅事業の実態を経験させ、経営者としての自覚と必要な知識、ノウハウ等を身につけさせる

要は、従来の土地所有者としての「土地活用」を継続していくのではなく、自ら、土地と建物に投資した「個人投資家としての視点」、賃貸住宅事業を実施する「経営者としての取り組み姿勢やマインド」をいかに持つことができるかということが、「土地オーナー」が、「個人のアパマン投資家」に勝てるかどうかのキーポイントになると考えられます。

賃貸住宅事業も事業である以上、土地代がただであるという土地オーナーのアドバンテージはそれほど大きい訳ではなく、それよりも立地の選択や、経営者の資質と覚悟の方が、事業の成否を左右する要素なのです。

しかし、一旦、「土地オーナー」が上記のポイントを理解し実行したとすれば、もともと、土地という資産を持っている「土地オーナー」は、何の資産も持たない「個人投資家」よりも、はるかにアドバンテージを持てるはずなのです。所有している土地を必要に応じて現金化すれば、投資に不可欠な自己資金を得ることができるからです。

賃貸住宅事業が、土地オーナーだけに許された特権であった時代は終わりました。土地オーナーも、個人投資家と同じ覚悟とノウハウを持ち、努力を積み重ねていかなければ、生き残ることは難しい時代になったのです。脱皮できない蛇は死ぬしかないと言われます。

土地オーナーの皆さん、あなたは脱皮できますか?

※本記事は2010年に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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