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住宅ローン減税を考える

住宅ローン減税を考える

去る3月27日、平成21年度の税制改正法案が成立し、この4月1日より一部の例外を除き新税制が施行されることになりました。今回の税制改正は、世界的な金融危機や景気悪化の影響もあり、過去最大規模といわれる住宅ローン減税の他、中小企業の法人税率軽減や欠損金繰戻し還付制度復活など、近年に例を見ない減税色の強いものとなっています。今回は、この中で、住宅ローン減税を中心に取り上げ、その効果を考えてみたいと思います。

住宅ローン減税の概要

下図は、今回の住宅ローン減税の概要をまとめたものですが、2008年度に比べ、2010年までの入居であれば、ローン残高の上限が2,000万円から5,000万円になり、最大控除額が500万円になるなど、大幅に拡充された内容になっています。

 

所得税から控除

居住年 ローン残高の上限 控除期間 控除率 最大控除額
2008 2,000万円 10年 1~6年目 1.0% 160万円
7~10年目 0.5%
15年 1~6年目 1.0%
11~15年目 0.5%

※控除期間は10年または15年の選択制

所得税から控除、所得税から控除しきれない額は住民税から控除

(ただし、所得税の課税総所得金額等の5%、最高9万7,500円が上限)

1)一般の住宅の場合
居住年 ローン残高の上限 控除期間 控除率 最大控除額
2009 5,000万円 10年 1.0% 500万円
2010 5,000万円 500万円
2011 4,000万円 400万円
2012 3,000万円 300万円
2013 2,000万円 200万円
2)長期優良住宅の場合
居住年 ローン残高の上限 控除期間 控除率 最大控除額
2009 5,000万円 10年 1.2% 600万円
2010 5,000万円 600万円
2011 5,000万円 600万円
2012 4,000万円 400万円
2013 3,000万円 300万円

しかも、今回はこれまでにない2つの目玉措置がついています。一つは、長期優良住宅については、ローン残高に関する控除率が1.2%(通常は1.0%)となり、最大控除額が600万円まで拡充されていること、もう一つは、住宅ローン減税の最大控除額まで所得税が控除されない方については、所得税から控除されない額について、翌年度分の個人住民税から控除される制度が新設されたことです。こうした措置の効果を、具体例で見てみることにしましょう。

住宅ローン減税の効果を試算してみると

ケース1:年収600万円のAさん(専業主婦の妻と子供2人)の場合

Aさんが住宅ローンを組み、住宅を取得して、年末のローン残高が3,000万円のケースを想定します。2008年中の入居の場合には、住宅ローン減税の控除額は、次のように計算されます。

ローン残高3,000万円<ローン残高の上限額2,000万円
所得税からのローン控除限度額=2,000万円×1%=20万円

Aさんの所得税額=7.95万円<ローン控除限度額20万円

したがって、Aさんのローン控除額は7.95万円と計算されます。

次に、Aさんの入居が2009年であった場合は、次のように計算されます。

ローン残高3,000万円>ローン残高の上限額5,000万円
所得税からのローン控除限度額=3,000万円×1%=30万円

Aさんの所得税額=7.95万円<ローン控除限度額30万円
Aさんの翌年の個人住民税額=17.7万円>個人住民税の控除限度額9.75万円

したがって、Aさんのローン控除額は7.95万円+9.75万円=17.7万円になり、今回の税制改革で、翌年の個人住民税からの控除が認められた効果が明確に出ています。

ケース2:夫が年収600万円、妻が年収400万円のディンクスのB夫妻の場合

B夫妻が住宅ローンを組み、住宅を取得して、年末のローン残高が3,000万円のケースを想定します。2008年中の入居の場合には、住宅ローン減税の控除額は、次のように計算されます。

ローン残高3,000万円<ローン残高の上限額2,000万円
所得税からのローン控除限度額=2,000万円×1%=20万円

B夫妻の所得税額=30.1万円>ローン控除限度額20万円

したがって、Aさんのローン控除額は20万円と計算されます。

次に、B夫妻の入居が2009年であった場合は、次のように計算されます。

ローン残高3,000万円>ローン残高の上限額5,000万円
所得税からのローン控除限度額=3,000万円×1%=30万円

B夫妻の所得税額=30.1万円>ローン控除限度額30万円

したがって、B夫妻のローン控除額は30万円になり、個人住民税からの控除の効果はありませんが、ローン残高の上限額が2,000万円から5,000万円に引き上げられた効果が現れています。

このように、住宅ローン減税の効果は、年収と借入残高により異なり、一般的には、年収が多いほど、借入残高が多いほど大きいことになります。また、今回の翌年度の個人住民税からの控除措置の創設により、比較的年収の低い方にもメリットが大きくなったと言えるでしょう。

住宅を購入する個人にとって、考えるべきことは何か

さて、このように、今回の住宅ローン減税は、相当大幅に拡充され、これから住宅を購入される方にとっては、一つの朗報と考えられます。しかし、この住宅ローン減税をフルに利用するためには、多額の借入金を借りる必要があり、そのことは、住宅購入者にとっては、長期的には大きな負担となり得ることを、十分に理解しておく必要があります。家計の収入と支出のバランスの中で、無理のない住宅ローンの返済が可能なことを確認できる範囲で、この住宅ローン減税を活用することが大切なのです。

1990年代前半のバブル崩壊の時期にも、政府は今回同様、大幅な住宅減税と「ゆとりローン」等の低金利政策を実施し、住宅着工数の増加により不況を乗り切ろうとしました。この際、家計とのバランスに欠いた状態で住宅を購入してしまい、ローンの返済に大変苦労している方も存在します。住宅の購入は、やはり必要な時期に、購入可能な金額で、気に入った物件が見つかった場合に限って考えるべきものだと思います。住宅ローン減税は、住宅を購入する際の国からのささやかなプレゼントだと捉えるべきでしょう。

また、この住宅ローン減税は、貸家を建てる場合の節税メリットに比べると、はるかに少ない効果しかないことも知っておくと良いでしょう。貸家建設の場合には、借入金の金利と建物の減価償却費が、所得額から経費として控除され、しかも、この控除には限度額も控除期間の限度もないのです。ですから、個人事業主などの場合には、会社を設立して、貸家を建設し、その一室を会社の社宅として借りて住むといった方法で、住宅ローン減税の数倍の節税効果を得ることができるのですが、詳細については、また、別の機会に譲ることにしましょう。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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