資産活用

入居者行動の激変と、今後の賃貸経営に必要な「大規模修繕」の捉え方

入居者行動の激変と、今後の賃貸経営に必要な「大規模修繕」の捉え方

築10年以上の建物には、比較的大規模な修繕工事が不可欠となりますが、ここ数年の間に起こった入居者行動の大きな変化によって、この大規模修繕のあり方を見直す必要が出てきました。時代から取り残されないために、中長期的に考えておきたい大規模修繕の考え方についてお話しします。

アパートや賃貸マンションなどの賃貸経営では、日常の維持補修や管理運営の善し悪しが、その経営状況に大きな影響を与えます。どんなに立派な建物を建てたとしても、その後の維持補修や管理運営が不十分であると、入居者の評判は落ち、空室率が増加したり、賃料水準が低下したりするなど、賃貸事業の収益性が悪化するわけです。その反対に、建設時の建物のグレードはそれほど高くなくても、日常の維持補修や管理運営の水準が高ければ、入居者の評判は良くなり、結果的に、空室率は低く、賃料水準は高めに維持することができ、賃貸事業としての収益性を改善することもできるわけです。

アパート経営や賃貸マンション経営では、こうした日常の維持補修や管理運営などを、とかく“わずらわしいこと”と捉えがちですが、投資(建物の建設や購入)後の維持補修や管理運営などの工夫により、投資の収益性を改善できることは、株式投資や債券投資などと異なる不動産投資(賃貸経営)の特徴であり、また、大きなメリットでもあるのです。実際、こうした日常の維持補修や管理運営の仕事は、最近は、プロパティ・マネジメントと呼ばれ、不動産の価値そのものを高める重要な業務と考えられています。

さて、日常の維持補修では、ちょっとした雨漏りの補修や、故障した部品の交換などを行いますが、建物が築10年以上経ってくると、外壁の塗り替えや屋根の葺き替え、設備器具の取替えなど、比較的大規模な修繕工事を実施する必要性が高まってきます。分譲マンションであれば、毎月、修繕積立金を積み立てて、こうした大規模修繕に備えるわけですが、賃貸経営の場合には、こうした大規模修繕の費用をあらかじめ用意しているケースは少ないようです。とはいえ、こうした大規模修繕を行わないと、周辺地域の新築物件などに対する競争力が低下し、賃料水準の低下や空室率の増大などが生じる可能性が高いのです。

ただし、こうした大規模修繕を行う場合には、大きな選択肢が二つあり、そのどちらかを慎重に選ぶ必要があります。一つは、単に痛んだところを直し、古くなった設備器具を取り替えるだけの大規模修繕でいくという選択肢です。もう一つは、これまでの住宅の間取りや機能を一新し、全く新たな価値を持つ住宅にリニューアルするという選択肢です。当然、後者は前者に比べて大きな費用を必要としますが、場合によっては、単なる大規模修繕ではなく、本格的なリニューアルを選択することの方が効果的、もしくは必要な場合があります。

賃貸経営の分野で、ここ数年の間に起きた最大の変化は、入居者募集の方法がすっかり変わってしまったことです。入居希望者がアパートや賃貸マンションの部屋を選ぶとき、一昔前であれば、駅前の不動産屋さんの店頭で、間取りと家賃が記載されたチラシを見て選んでいたのが、最近では、まず、インターネットで検索をして、その検索条件にあった物件の中から、気に入った物件を選ぶという方法に変わってしまったのです。この場合、検索条件としては、まず、家賃の水準、そして2DKや3LDKなどの間取り、さらに、バス・トイレ別や洗濯機置き場の有無、空調機、インターネット接続、セキュリティ等の設備の状況などがキーポイントになります。こうした部屋選びの新しい常識に照らした場合、築10年以上経過したアパートや賃貸マンションを、外壁の塗り替えや故障した設備機器の取替えなどの単なる大規模修繕で済ますだけでいいのかどうかを、あらためて検討する必要があるわけです。

たとえば、外壁をきれいに塗り替え、屋上の防水工事をやり替え、故障したガス給湯器を交換したとしても、お風呂とトイレが一緒になったいわゆる三点式のユニットバスで、洗濯機は外廊下に置かざるを得ず、インターネットも繋がらず、セキュリティも全くない建物では、入居者のインターネットによる検索条件には全くヒットせずに、現地に見に来てももらえないという結果になってしまう可能性が高いのです。また、建築当時からは、周辺地域の状況が大きく変化し、入居者層が大きく変わってしまっている場合もあるでしょう。こうしたケースでは、新たな入居者層のニーズに対応するために、間取り変更などの本格的なリニューアル工事を行う必要があるものと考えられます。

このように、築10年以上経過した建物では、日常の維持補修に加え、大規模修繕もしくは本格的なリニューアル工事を検討することが不可欠となります。その際、周辺地域の状況や入居者のニーズがどのように変化しているかをしっかりと捉え、費用対効果のバランスを見ながら、適切な投資水準を選択することが大切です。そのためには、マーケットの状況や工事コストなどについてのリアルタイムの確かな情報や知識が必要となりますので、信頼の置ける管理会社や専門家に相談することが成功の秘訣と考えられます。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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