1.個人間における土地の使用貸借
使用貸借による土地の賃借人には、賃貸借ではないため、借地借家法における借地権という権利は存在しないことになります。したがって、権利の移転(発生)を伴うようなことが生じないため、個人間における土地の使用貸借という行為自体について、税務上において問題が生じることは通常はありません。
つまり、土地の賃貸借の場合は借地権という問題が生じるところ、使用貸借であれば税務上においても問題なく借主はタダで土地を利用することが可能となるのです。そのため、土地の使用貸借は親族間、特に親子間でよく行われています。
個人間で土地の貸借を行った場合の税務上のポイント
○賃貸借……借地権の問題、つまり権利金の授受等が行われないと贈与等の問題が生じる可能性がある。
○使用貸借……それ自体で税務上の課税問題は生じない。
2.相続税上の土地の評価への影響は?
子供が親の土地を使用貸借により借り受けて賃貸用建物などを建設することがよくあります。
この場合、建物から生じる収益はその全てを建物所有者である子供が享受することができるため、親の蓄積財産(金融資産)の増加を抑制できるというメリットがあります。
しかしながら、デメリットとしては土地の相続税評価額は自用地、つまり更地として評価されることが挙げられます。借地権という権利が発生していないのですから、当然に更地評価となります。したがってこのケースでは、親が所有する土地という財産自体の減少効果はないことになります。
3.賃貸用建物の贈与と土地の使用貸借の合わせ技
上記2のとおり、子供が親の土地を使用貸借により借り受けて建物を建築した場合には、土地の評価額は減少しません。
そこで、土地の評価額を減少させる方法を考えることにしましょう。
1つの方法として、親が自ら賃貸用建物を建築して賃貸に供した後に、子供に贈与する方法が考えられます。
この場合、自らの土地に賃貸用建物を建築していることから、賃貸後のこの土地は貸家建付地となり、相続税評価額が減少することになります。例えば、借地権割合が6割の地域であれば、自用地評価額の82%相当となり、土地の評価額は18%引きとなるのです。
その後、土地については使用貸借として、この建物を子供に贈与します。これにより、上記2と同様に子供に収益を移転させることができ、かつ、土地の評価額減少という効果も得ることが可能となります。
ただし、重要な注意点としては、賃貸用建物の賃借人が建物贈与後に異動した場合には、この貸家建付地による評価減という効果はなくなり自用地評価額に戻ってしまうということです。
そのため、賃借人に異動が起こらないような仕組みづくり、例えばサブリースによる一括賃貸方式などを利用する必要があるでしょう。
ポイント
○土地所有者が建物を建築し、貸家建付地とする。
○親は建物評価額と建築コストの差異による相続税対策が図れる。
○贈与前後で賃借人に異動がないようにする。
○建物贈与により、収益の移転を図る。
○建物贈与にあたっては、贈与税の多寡により相続時精算課税の利用を考慮する必要がある。
4.法人の活用も含めた検討が必要
法人の活用を検討する必要もあります。
例えば、個人ではなく同族法人が土地を借り受けて賃貸用建物を建築することが考えられます。この場合、一定の要件等をクリアすることにより、土地の相続税評価額を20%引きとすることができ、小規模宅地等の特例の利用も可能となります。さらに、収益は法人に帰属することから、多くの人に収益を分散させることができ、所得分散効果を大きく享受することが可能となります。
また、同族法人に対してサブリースを行うことも考えられます。同族法人に対するものですから、外部へ賃料収入が流出するようなことはなく、上記3のポイントである賃借人の異動リスクを無くすという効果を得ることができるでしょう。
※本記事は2008年に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
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