〈今回のテーマ〉「遺贈」のやり方とその留意点
妻が他界し、子どもはおらず、身寄りは姉と妹だけです。長年、会社を経営してきた私の主な財産は自社の株式と会社に貸し付けている土地で、これらを姉や妹が相続しても困ってしまうと思います。姉の長男(私にとっては甥)が有能で会社経営にも明るいので、甥に私の財産を引き継いでもらいたいと考えていますが、私の法定相続人は姉と妹で、甥は法定相続人ではありません。養子縁組も考えましたが、甥は養子縁組には抵抗があるようです。法定相続人ではありませんが、信頼できる甥に財産を承継する方法はないのでしょうか。
遺贈とは? ~考え方とその方法について
民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。つまり、被相続人の財産は、法定相続人が承継することが原則とされているということです。
それでは、相続人以外の者は相続財産を一切取得できないのかといえば、必ずしもそうではありません。民法第964条は「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」と定めています。
遺言者(=被相続人)は遺言によって財産処分に関する意思表示を行えるということです。遺言者は遺言によって財産を人に無償で譲ることも可能であり、これを「遺贈」と言います。ご質問のケースのように、自分の財産を相続人以外の方に承継させたいという場合は、遺贈による承継を考えてはいかがでしょう。
では、次に遺贈の方法について見ていきます。前述のように、遺贈は遺言による財産処分ですから、まず遺言書を作成することになります。自筆証書遺言、公正証書遺言、その他遺言の種類を問わず、どの種類の遺言書でも遺贈を行うことができます。
遺贈を行う際は、遺言書に「●●(ご自身/遺言者)は、△△(遺贈を受ける者が特定できるよう、名前や生年月日などを具体的に記載します)に、○○の財産(「その有する一切の財産」「その有する下記不動産」など遺贈する財産を具体的に記載します)を遺贈する。」と記載しましょう。一般に相続人に対して財産を承継する場合は、「〇〇の財産を相続させる。」との文言を用いますが、遺贈の場合は「遺贈する。」と記載します。
遺贈をする際の注意点 ~相続と遺贈の相違点
最後に、遺贈をする際の注意点を見ていきましょう。
❶遺贈による財産承継の相続税は、相続による財産承継の相続税の2割増しとなります。
❷承継する不動産の登録免許税は、相続の場合は不動産の価格の1,000分の4ですが、遺贈の場合は1,000分の20となります。
❸相続の場合には不動産を取得した相続人は単独で登記申請ができますが、遺贈の場合には他の相続人全員と共同で登記申請をしなければなりません。1人でも登記に協力してくれない相続人がいると手続きが煩雑になってしまいます。そのため、遺贈をする場合は遺言書に遺言執行者を必ず記載しておくとともに、法定相続人や遺贈する方と話し合っておくことがポイントです。
なお、ご相談者の身寄りは姉妹で遺留分はありませんが、遺留分のある相続人がいる場合は考慮が必要です。
❹承継財産に農地を含む場合、財産すべて、または一定の割合を包括的に指定して相続させる遺言の場合は農地法の許可が不要ですが、(全体の中から)農地を特定して遺贈する場合は農業委員会の許可が必要になります。
今回の内容を参考に、ぜひご自身の想いを叶える財産承継を実現していただきたいと思います。
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。
海谷・江口・池田法律事務所
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