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2024年4月1日より相続登記が義務化へ ~速やかな相続登記が困難な場合の対応策もチェック!~

記事作成日:2022年7月11日
記事公開日:2023年4月19日
記事改訂日:2023年4月19日

〈今回のテーマ〉民法・不動産登記法の改正

父が亡くなりました。相続人は母と長男である私と次男である弟がいますが、ほかにも父と前妻との間に生まれた子が3人います。そのうちの1人はカナダ在住と聞いたことがありますが、それ以上のことは知りません。遺産分割協議をしたいと思っていますが、前妻の子らとはつき合いがなく、面談もままならない状況です。このたび、所有者不明土地が増加していることから相続登記を義務付ける法律が制定されたと聞きましたが、私のように相続人が誰かもよく分からず、遺産分割協議もままならない場合はどうすればよいのでしょう。

正当な理由なく相続登記を怠った場合は過料も

所有者不明土地問題の解決を図るため、民法・不動産登記法の改正法が2021年4月21日に成立し、2024年4月1日から施行されることになりました。
これまで、相続により不動産を取得しても相続登記申請義務は課されていませんでした。しかし、相続登記の未了は所有者不明土地の主な発生原因の一つといわれているため、改正法ではその解決策として相続登記の申請が義務化されました。

具体的には、相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限ります)により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続の登記をすることが義務付けられました。そして、正当な理由なくそれを怠った場合には、10万円以下の過料に処されることとなりました。

相続登記が困難な場合に活用できる制度とは?

ご質問のケースのように、相続人全員の住所・氏名が分からない、遺産分割が成立する見通しも立たないという場合、速やかに相続登記をすることは困難です。そこで、法律では新たに「相続人申告登記」という制度が設けられました。

これは、相続人が、①所有権の登記名義人が死亡し相続が開始したこと、②自らがその相続人であることを登記義務の履行期間内(前述のとおり3年間)に登記官に申し出ることにより、相続登記の申請義務を履行したものとみなすというものです(登記名義人は被相続人のままです)。

相続人申告登記は、相続人が複数いる場合でも、特定の相続人が単独で申請することができます。また、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要もありません。登記をする際の添付資料も、自分が登記名義人の相続人であることが分かる戸籍謄本で事足ります。

ただし、相続人申告登記をしたとしても、遺産分割協議によって被相続人名義の不動産を相続人が取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務付けられています。遺産分割による名義変更登記を正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料に処されることになりますので注意しましょう。

押さえておきたい、その他の改正点

改正法では、個人のほか、所有権の登記名義人となっている法人も住所、氏名、名称を変更した場合は、変更登記が義務化されました。2年以内に登記をしなかった場合は、5万円以下の過料に処されることになります。

また、相続登記の促進に加え、被相続人名義の不動産を把握しやすくするため、法務局の登記官に自分あるいは被相続人名義で登録されている不動産を一覧にした証明書を請求できる「所有不動産記録証明制度」が新設されます。

改正を経て今まで以上に、事前の準備が求められるようになった相続登記。変更点を押さえ、円滑な相続が行えるように早め早めの対策を行いましょう。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

海谷・江口・池田法律事務所

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