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相続法の改正相続法の改正

レッツプラザ2020年10月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
被相続人の預貯金の仮払制度の創設について
父が亡くなりました。相続人は母と、長男の私、次男、長女、次女の5人です。
母は施設に入所しており、これまで母の施設費は父が面倒を見ておりました。
そこで、母と私達4人の子で集まり、今後の母の施設費用をどうやって負担するかを話し合いました。
母も、私も、長女も次女も父名義の銀行預金からその費用を支払うことで一致したのですが、次男が反対しています。銀行の窓口では、相続人の全員が預金の払い戻し手続きをおこなうのでない限り預金の払い戻しには応じられないと言われています。どのようにすればよいのでしょうか。

A.お答え

従来の被相続人の預貯金債権の取り扱い

金融機関に対する預貯金債権は分けることが可能という意味で可分債権とされていますので、被相続人が死亡した場合には、その預貯金債権は、相続人による当然分割財産と解されてきました。当然分割とは、遺産分割協議をする必要はなく、被相続人の死亡と同時に当然に分割がされるという意味です。従って、従来は被相続人の預貯金は、各相続人がそれぞれの法定相続分割合で金融機関から払い戻すことが最高裁の判例で認められていました。ご質問のケースでいえば、各相続人の相続分は配偶者であるお母様が2分の1、4人の子は各々8分の1の法定相続分を有していますので、仮に被相続人の預金が1,800万円あったとすると、配偶者は900万円、4人の子らは、それぞれ225万円は単独で金融機関からの払い戻しが認められていました。お母様の施設費用は、反対する次男の225万円が使用できないだけで、お母様と長男、長女、次女の分の合計1,575万円は払い戻しを受けることができていました。

ところが、最高裁の平成28年12月19日の大法廷決定で判例が変更され、預貯金債権は当然分割財産ではなく遺産分割が必要な財産であるとされました。従って、この判例変更以後は、お母様の施設費用が必要であっても、預貯金について相続人の全員一致で遺産分割協議を成立させなければ、払い戻しができないことになりました(図1参照)。

改正民法における預貯金債権の取り扱い

改正民法では、前記の最高裁の判例変更に従い、預貯金債権は当然分割ではなく遺産分割の対象財産であるとの前提をとっています。しかし、このままですと、配偶者の生活費や療養費の支払い、葬儀費用の支払いや、被相続人の債務の支払いに、遺産分割協議が成立するまで、被相続人の預貯金が使えないことになり、不都合を生じる場合もあり得ます。そこで、改正民法では、相続された預貯金債権について、相続人の生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割が成立する前の段階で、預貯金の払い戻しが受けられる制度を創設しました。その方法は2つあります。

改正民法のもとでの被相続人死亡後の被相続人の預貯金の払戻手続

①預貯金の3分の1の法定相続分を 金融機関の窓口で受ける方法

改正民法では、各相続人は、被相続人の預貯金のうち相続開始時の預貯金額の3分の1に各相続人の法定相続分を乗じた額までは遺産分割協議を経なくても単独で払い戻しを受けることが認められました。ただし、各金融機関から払い戻しを受けることのできる上限額は150万円とされています。相続人がこの権利を行使して払い戻しを受けた預貯金については、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなすものとされています。この方法によると、お母様は、1,800万円の預金の3分の1の600万円に自己の相続分である2分の1を乗じた額は300万円ですが、上限は150万円ですのでお母様は150万円、4人の子は600万円に自己の法定相続分の8分の1を乗じた各自75万円の払い戻しを受けることができることになります。この方法によるときは、1つの金融機関ごとに150万円の上限がありますので、預貯金を複数の金融機関に預ける等、預金の分散をする必要がある場合もあり得ることに留意する必要があります。

②家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てる方法

もうひとつの方法は、家庭裁判所に遺産分割の調停または審判を申し立て、家庭裁判所に、遺産である預貯金の全部または一部を特定の相続人に仮に取得させる旨の決定をしてもらう方法です。この方法は預貯金の3分の1に相続分を乗じた額という制限はありませんし、金融機関における上限150万円という制限もありません。ただし、この制度は、家庭裁判所に遺産分割の調停または審判を申し立てる必要がありますので、時間がかかります。緊急の必要がある場合に間に合わないこともあり得ますので、そのときには前記①の金融機関ごとに上限150万円までの払い戻しの方法をとることになります。

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