Q.お客さまからのご質問
賃貸アパートを経営しています。2017年に民法が改正されたと聞いたのですが、私たちのような大家に影響がある改正なのでしょうか。特に、アパートの賃貸借の連帯保証人と契約する際に注意しなければならない事項があれば教えてください。
A. お答え
① 民法の改正
わが国の民法は明治29年に制定されたものですが、この度、120年ぶりに改正されることとなり、2017年5月26日参議院本会議で可決成立し、同年6月2日に公布され、2020年4月1日から施行されることが決まっています。今回の改正は、契約法の全般を抜本的に見直すものですので、不動産の売買や、賃貸借などの契約実務も大きく変わることになります。とりわけ、賃貸借の分野では、かなり大きな改正がなされていますので、賃貸経営をされる方にとっては改正民法の知識は必須と思われます。
② 賃貸借契約の連帯保証人に関する改正
改正民法では、賃貸借契約の連帯保証人が個人である場合は、原則として、連帯保証契約において「極度額」を合意しないと連帯保証契約が無効になります。「極度額」とは、保証人の責任限度額、保証の上限額のことです。例えば、家賃が月額10万円のアパート賃貸借の連帯保証人との間で、極度額を契約書で100万円と定めたとすると、賃借人が家賃を滞納し、例えば1年3か月分を支払わなかった場合、150万円の滞納がありますが、連帯保証人には合意した極度額100万円までしか請求できなくなる、ということです。
改正民法のもとでは、この「極度額」を原則として書面で合意しなければなりません。これを書面で合意しないと連帯保証契約自体が無効とされてしまいます。改正民法のもとで、無効とされる連帯保証契約はどのようなものかというと、
第○条
丙(連帯保証人)は本契約に基づく乙(借家人)の甲(賃貸人)に対する一切の債務について、乙と連帯して債務を履行する責を負う。
という条文がこれにあたります。この条文は、これまで一般的な契約ひな形に盛り込まれていた条文です。改正民法が施行される2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結する場合は、必ず極度額を賃貸借契約書において合意しておく必要があります。その場合の契約条項の例としては、例えば、
第○条
丙(連帯保証人)は本契約に基づく乙(借家人)の甲(賃貸人)に対する一切の債務について、金100万円(あるいは賃貸借契約締結時の賃料の○ケ月分相当額)を極度額として乙と連帯して債務を履行する責を負う。
という条項を賃貸借契約書に設けることになります。
③ 改正民法の施行時期との関係
この新しいルールは2020年4月1日から実施されます。現在、賃貸借契約を締結しているものについては極度額を合意していないと思われますが、この契約は2020年4月1日を迎えると無効になるのでしょうか。改正民法の規定は、施行日である2020年4月1日以降に新規に賃貸借契約を締結する場合に適用されます。従って、現在締結済みの既存の賃貸借契約については、改正民法施行後もそのまま有効と扱われますので、この点は安心していただいて結構ですが、2020年4月1日以降に契約を締結する場合には極度額が必要となることに注意してください。
※本記事は2018年5月号に掲載されたもので、2022年1月時点の法令等に則って改訂しています。
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。
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