土地資産家のための法務講座

被相続人の預貯金類についての遺産分割協議

父が亡くなり、長男の私と2人の弟が父の遺産を相続することになりました。父が所有していた自宅の土地建物は、父と同居していた私が相続することで誰も異議はないのですが、父には金融機関に対するかなりの預貯金があり、これをどのように分けるかで揉めています。預貯金の分割について、兄弟間の話し合いがつかなければ、家庭裁判所の審判で遺産分割の決定をしてもらえるのでしょうか。

民法は、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条) と定めています。そして、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」 (民法第899条) としています。つまり、被相続人が死亡した場合、被相続人の遺産は、各相続人が有する相続分の割合による共有となるわけです。

共有の状態では、各相続人は全員一致でない限り、その財産を処分することができませんので、相続人は遺産分割協議をおこない、それぞれの相続財産がどの相続人に帰属するかを協議により決定することになります。遺産分割は、共同相続人が遺産分割協議をして、遺産の分割内容を合意により決定するのが原則です(民法907条1項)。

それでは、被相続人の遺産である預貯金についても、遺産分割協議により、各預金を誰が相続するかを決めるのでしょうか。実は、遺産分割協議は、分割の協議をしなければ分けることのできない財産についておこなわれるものなのです。例えば、自宅の土地・建物は、これを分割するといっても、どの部分を誰に取得させるかは、遺産の分割協議をしない限り、決めることができません。

これに対して、金銭債権のように、分割が可能な債権(これを「可分債権」といいます。) については、判例では、「相続財産中の可分債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」 (最高裁昭和29年4月8日判決)とされています。このため、銀行の普通預金や定期預金、郵便局の通常貯金は、当然分割とされています。当然分割とは、遺産分割協議が不要で、被相続人が死亡した時点で当然に分割されているということです。銀行実務では、被相続人の預金は、相続人全員で払戻請求することがおこなわれていますが、法的には、各相続人は自己の相続分に相当する預金額を裁判手続等で請求すれば、払い戻しを受けることが可能とされています。

ただし、郵便局の定額貯金は、昔から郵便貯金法により分割払戻が禁止されていますので、当然分割の扱いにはなりません。もっともこれは、法的には当然分割とされているという意味であって、相続人が全員一致で合意する限り、遺産分割協議をおこなって、預金を誰が相続するかを協議により決定することは当然ながら認められています。

※本記事は2014年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

海谷・江口・池田法律事務所

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