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「とりあえず共有」はトラブルのもと

ご両親がお住まいだった実家、1棟しかない賃貸マンション……。相続時に親族間で共有することが多い不動産ですが、それがトラブルを引き起こすこともあります。共有不動産をめぐるトラブルとその解決方法について、事例を交えてご紹介します。

記事作成日:2024年1月10日
記事公開日:2024年3月31日
記事改訂日:2024年3月31日

相続後の遺産分割協議の際、誰がどの不動産を相続するかを決める気持ちの余裕が相続人にない、はたまた話すこと自体を不謹慎に感じるなど、不動産を「とりあえず共有」にしたくなる場面は多いと思います。しかし、その「とりあえず共有」の選択が先々のトラブルにつながることが往々にしてあります。では、具体的にどのようなトラブルが起きてしまうのでしょうか。

持ち分の売却により、係争に巻き込まれる事態に

相続不動産を3人の相続人で共有する場合、持ち分を3分の1ずつにすることが多いです。この3人をA様、B様、C様とし、A様は不動産を売却して現金化することを望んでおり、B様とC様は売却に反対しているケースについて考えてみましょう。

A様は、B様・C様の許可なしでは不動産自体を売却することはできません。しかし、A様自身の持ち分に関しては、単独で第三者(以下、Y社)に売却することができます。本来、A様の持ち分の評価額は「不動産全体の評価額×3分の1(A様持ち分)」となりますが、Y社はB様とC様が売却に反対して不動産の売却ができないリスクを考慮し、持ち分評価額の半額程度の金額を提示しました。つまり、例えば評価額3億円の不動産だとしたら、A様の持ち分の評価額は1億円ですが、Y社はその半分の5,000万円程度を提示したのです。そして、売却を望むA様もこれに応じました(図表1)。

売却が成立しても、A様はB様・C様に報告する法律上の義務はありません。このケースでは、B様からご相談を受けた当社が登記簿謄本を取得した際にA様の持ち分名義がY社に移転されていることが分かり、B様とC様は初めてA様が持ち分を売却していたことを知りました。しかもB様とC様は不動産の建物部分を使用していたため、後日Y社より賃料の請求を受けたうえ、共有物分割請求訴訟を裁判所に提起されてしまいました。

A様はある日突然Y社に持ち分を売却したわけではなく、B様やC様と長期間話し合っても合意に至らなかった経緯があったのでしょう。その結果、A様は本来の評価額の半額ほどの現金しか受領できず、B様とC様は係争に巻き込まれることになりました。先代が大切に残してくれた資産なのに、「とりあえず共有」した結果、誰も得をすることのない結末を迎えてしまったのです。

持ち分売却という最終手段の前に、専門家に相談を

A様たちのような結末にならないためには、どうすればよいのでしょう。そのヒントは、当社でご相談を受けた別のケースにあります。

不動産を共有しているD様とE様兄弟の話です。弟のE様は不動産を売却し現金に換えたいと思っていましたが、兄のD様が同意しないだろうと思い込んでおり、自分の持ち分だけを不動産会社に売ることを考えていました。そのE様から当社にご相談があり、当社は「D様にE様の持ち分を適正な評価額で購入してもらうことを提案してみたらいかがでしょうか」とアドバイスしました。しかし、E様は「兄のDが話に応じるとは思えない」の一点張りです。

そこで、当社はまず不動産の評価額を算出し、それをお2人の持ち分に応じた適正な評価額として提示。さらに、D様にE様の持ち分を買い取るメリットや買い取らない場合のリスクをご説明しました。その結果、D様は、適正な評価額でE様の持ち分を購入することに同意。これにより、D様は先代から受け継いだ不動産を引き続き所有することが叶い、E様は希望通り現金化することができ、双方にとってよい結果となりました。

もし、ご親族間での協議が行き詰まってしまったら、持ち分売却という最終手段に訴える前にぜひ専門家への相談を検討してみてください。感情的になりやすい親族間での協議においては、第三者の意見が助けになることがあります。なお、初期段階で弁護士を立てると対立する雰囲気になり、親族間での協議がさらに難しくなる場合もあるので注意が必要です。

不動産の有効活用で、共有が解消できるケースもある

共有不動産の売却に関する事例をご紹介しましたが、有効活用で共有解消ができるケースもあります。老朽化した賃貸アパートなど、建て替えによって収益向上が見込める不動産であっても、共有者ごとに経済状況等が異なり投資の判断が分かれることで、有効活用できないまま何十年も経過してしまうことも珍しくありません。加えて、その期間中に相続が発生すると、満足な相続対策が講じられず、相続税の負担だけが重くのしかかることになります。特に収益性が低い不動産の場合、納税資金の準備が難しくなることも想定されます。

共有者だけで建築資金が調達できない場合は、建築資金をデベロッパーに負担してもらい、新築の区分マンションを複数戸取得することができる等価交換という方法などが考えられます(図表2)。この手法は賃貸収入を得られるだけでなく、相続時の分割対策や相続評価額の圧縮効果も望めます。ただ、等価交換事業のスキームによっては期間中に共有者に相続が発生したり、意思能力が低下したりすると事業に影響が出てしまう場合もあるため、共有者全員が元気なうちに対策を講じることが重要となります。

このように不動産の共有は将来のトラブルにつながることが多々ありますので、ぜひ共有者同士の関係が良好なうちに解決しておきましょう。また、円滑な解決に向け、適切なタイミングで専門家を交えて協議を行うことをお勧めします。


三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部

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