老朽化不動産の処方箋【第3回】組み換え

諸条件を吟味して「資産の組み換え」を決断。相続対策にもメド

老朽化対策

今回の事例は、都内好立地で常に満室に近い賃貸マンションながら、築40年が経過したため賃料は相対的に低下、大規模修繕対策や耐震性についても不安があるという老朽物件です。オーナーのご意向を前提とした「3つの判断軸」をもとに、組み換えを決断されるまでの流れを詳しくご紹介します。

老朽化や耐震性の不安から今後の競争力低下を懸念

今回ご紹介するのは、都内S区の駅徒歩5分の好立地に賃貸マンションを所有していたA様(75歳)のケースです。周囲に商業施設などが充実した駅近物件で常に満室に近いものの、すでに築40年が経過しており賃料は周辺相場よりも低く、さらに、管理会社からは近いうちに大きな出費の伴う大規模修繕が必要だと指摘されていました。

また、耐震性についても不安があり、いかに好立地とはいえ、このままでは周辺の賃貸マンションに対する競争力は確実に低下していくことが予想されました。今は高い稼働率を保っているものの何らかの手を打たなければとA様はレッツに相談を寄せられました。

相続対策の早期完了に向け資産の「組み換え」を決断

さっそく建物を診断したところ、建物は現行の耐震基準を満たしていないこと、給排水管の更新が必要であること、さらに3点式ユニットバスや和室など、設備や間取りが今後の入居者ニーズにマッチしていないことが判明。これを受けて、レッツでは建替えもしくはリファイニング建築による建物の再生、そして、売却およびほかの投資用不動産への組み換えをそれぞれ検討することにしました。

続いて、建替えとリファイニング建築については、それぞれの事業費や竣工後の年間手取り額を算出。さらに、資産の組み換えについては既存マンションの売却査定価格と組み換え後の年間手取り額をレッツで試算しました(図1)。また、組み換え以外の事業期間については建替えが2年半、リファイニング建築が1年半と見積っています。あわせて現在の所有マンションは満室稼働に近いことから、建替えとリファイニング建築の場合、入居者との立退き交渉次第ではさらに事業期間が延びたり、事業費がかさむ可能性もありました。

A様にとって建替えやリファイニング建築による市場競争力向上は魅力的でしたが、ご自身の年齢に鑑み、多額の借入れや、事業期間の長期化を避けたいというご意向があり、結果的にA様は資産の組み換えを選択。さらに組み換え先として、一棟マンションか、複数戸の区分所有マンションかを検討した結果、奥様とお子様2人への相続を考えて、分割対策の観点から複数戸の区分所有マンションへの組み換えを前提に計画を進めることになりました。

老朽化不動産対策としての「組み換え」のメリット

建替えやリノベーション、耐震補強工事を伴うリファイニング建築の場合、満室稼働など稼働率が高いと入居者の立退きに時間とコストがかかります。特にオフィスや店舗の場合は地縁性が高く、立地条件や床面積、賃料などの問題から移転先がなかなか見つからなかったり、営業補償などのコスト負担が生じたりするケースも少なくありません。また、入居者の立退きや建築に伴う事業期間は、当然ながら無収入期間になってしまうことも留意しておくべきでしょう。

一方、入居者がいる状態でも売却でき、こうした立退きや工事が不要な点は、資産の組み換えの大きなメリットと言えます。さらに、多額の追加投資が不要な点も組み換えの特長です。例えば、大規模修繕の費用に充てる修繕積立金が不足していたり、そもそも積み立てておらず手元資金が乏しいというオーナー様であっても、借入れが困難だったり負債を背負うことに抵抗があるかもしれません。そうしたオーナー様の場合、売却した資金の範囲内でほかの優良資産に組み換えれば、自己投資ゼロで事業性の向上が可能になります。ただし、資産の組み換えでは当然ながらそれまでご所有だった土地や建物を手放すことになりますので、特に代々受け継がれてきたご所有地に愛着のあるオーナー様などには、大きな決断が求められるのは言うまでもありません。

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