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改正マンション評価、その概要と相続税対策への影響

2024年(令和6年)1月1日、新たに改正されたマンションの相続税評価方法が適用されました。この評価方法により、税務署はいわゆる「タワマン節税」と呼ばれる相続税対策に対して一定の規制を加えたと言われています。そこで、この新たな評価方法の影響を確認するとともに、これからとるべき対応を探ってみましょう。

相続税評価額が従来よりも増加する物件の4つの特徴

新たなマンション評価を行うための肝は評価乖離率です。それは、評価乖離率次第で相続税評価額に対する影響が変わってくるからです。そこで、評価乖離率の算式を確認しておきましょう。詳細は図表2をご覧ください。

評価乖離率=[築年数×△0.033]+[総階数/(1超は1)×0.239]+[所在階×0.018]+
[敷地利用権面積/専有部分面積×△1.195]+3.220

算式を見ると、評価乖離率は「築年数・総階数・所在階・敷地利用権面積/専有部分面積」の4つの指数に3.220を足して求めていることが分かります。そして、評価乖離率が大きくなればなるほど新たな相続税評価額は従来よりも増加することから、以下の特徴がある物件は相続税評価額が高くなると言えます。

A.築年数が浅い
B.建物の総階数が高い
C.部屋の所在階が高い
D.容積率が高く高層利用したマンション(敷地利用権面積/専有部分面積が小さい)

逆に、この条件に当てはまらない物件ほど、改正の影響は小さくなります。具体的には、総階数が低い築古物件で建物敷地が広めのマンションです。国税庁ホームページで、この評価乖離率を用いた新たなマンション評価額を計算するための簡単な計算ツールが公表されています。相続対策の検討の際には利用されるとよいでしょう。

なお、マンション評価の計算式は3年ごとに行われる固定資産税評価の見直し時期に併せて適宜見直しをすることになっています。したがって、2024年から2026年までは今回の計算式ですが、2027年からは状況によって見直しがされる可能性があります。ただし、逆に考えれば3年間はこの計算式で運用されることが決定したということです。

東京と大阪、実在するマンションで改正の影響度を検証

では、今回の改正は実際にどの程度の影響を及ぼすのでしょうか。実在するマンションで検証してみました。図表3をご覧ください。

東京都目黒区の中低層マンション
自宅用の中低層マンションです。新たな相続税評価額は従来の約1.5倍になり、“実際の市場価格”の約40%に達しました。

東京都港区の高層マンション
東京中心部の人気エリアにあるタワーマンションです。新たな相続税評価額は従来の約1.8倍になりましたが、“実際の市場価格”に対しては約26.6%程度で収まりました。

大阪市中央区の高層マンション
地方大都市である大阪中心部にあるタワーマンションです。新たな相続税評価額は従来の約2.09倍になり、“実際の市場価格”の約56.4%に達しました。

東京都港区の築古超高級マンション
いわゆるビンテージマンションと呼ばれているような超高級マンションです。低層で築年数が古い建物で、かつ敷地が広いのが特徴です。これらの特徴から、このマンションは相続税評価額算出のための新たな3つの算式のところでご説明した、例外その1「従来の相続税評価額がすでに“理論上の市場価格”の60%以上になっている場合」に該当します。新たな相続税評価額は従来と変わらず、“実際の市場価格”に対しては約16.6%程度の評価に過ぎません。つまり、今回の改正では是正ができなかったマンションということが分かります。

計画的に購入すれば、今後も効果的な相続税対策が可能

新たなマンション評価は物件によってその影響度がまったく異なります。今回の改正はいわゆるタワマン節税防止のためという側面が強いものの、多くの方がご自宅として所有しているような中低層マンションにも相当の影響が生じます。逆に、築古超高級のマンションには影響を及ぼさないことが多いのではないかと思われます。

さらには、全国一律で定めた評価方法であるがゆえと思われますが、地方都市のタワーマンションは相続税評価額が“実際の市場価格”の60%近くまで引き上げられる可能性が高い一方で、東京中心部のタワーマンションは30%以内に収まりそうです。都心の人気エリアは“実際の市場価格”との乖離率が全国平均と比べて特に大きいことが要因と考えられます。このような物件は今後も相続税評価額が比較的低い金額に抑えられそうです。

このように、改正後であっても依然として相続税対策の効果を大きく得ることができるマンションがあることが分かります。つまり、物件次第ということです。そのため、どのようなマンションを購入するべきか、物件選びをしっかり行うことがますます重要になってくると言えます。

なお、相続直前の駆け込み購入は印象が悪くなり、税務当局からあらぬ疑いをかけられる可能性が高くなります。余裕をもって計画を立てて購入することが大切です。また、借り入れをせずに資産の組み換えを行ってマンションを取得することも非常に有効です。計画的なマンション購入を行うことで、今後も効果のある相続税対策を実行することができるでしょう。

税理士。1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年、税理士法人エーティーオー財産相談室入社。資産税を中心とする税務申告、不動産税務コンサルティング業務などを提供。2021年、同法人代表社員に就任し、現在に至る。著書に『土地の有効活用と相続・承継対策』(税務研究会出版局)など。

税理士法人エーティーオー 財産相談室 代表社員

高木 康裕

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