3,000万円控除の対象となるか否かのポイントは?
この特例は、導入された背景・趣旨からわかるように旧耐震基準の空き家の増加を抑制するのが目的です。したがって、自宅を譲渡した場合の3,000万円控除など、他の居住用財産に対する特例とは異なる特徴があります。それは、空き家となった不動産の種類や利用実態などにより特例の対象範囲が大きく変わることです。そのうえパンフレットなどを見ても「このケースでは対象範囲はここまで」「このケースは対象から除外」など、細かすぎてわかりづらく感じます。
そこで、空き家の3,000万円控除の対象範囲のイメージをつかむための考え方をご紹介しましょう。ポイントはただ1つ、「相続で生じた空き家のリスクに対応し、解決する」という前提を意識することです。
A.区分所有建物は対象外
マンションなどの区分所有建物は、建物全体を他の所有者の持分とともに管理するため、たとえ1部屋が空き家となったとしても倒壊などの危険性はありません。したがって、区分所有建物は特例対象外です。
B.母屋のみが対象
この特例は空き家問題に限定して狙い撃ちした制度です。つまり、相続を機に住まなくなってしまった家が問題なのです。そもそも居住を目的としていない建物は居住用建物と一体利用されていたものであっても対象にはなりません。したがって、自宅敷地に母屋、離れ、蔵や倉庫・ガレージなどがある場合には、母屋の敷地部分のみが対象となります。
C.店舗兼住宅などは居住部分のみが対象
被相続人が自宅建物の一部を店舗などにしていたとしても、空き家となった自宅部分が相続後に適切に管理されないリスクはあります。そのため、このような住宅は居住用部分が特例の対象となり、それ以外の部分は特例対象外です。なお、賃貸併用住宅などで建物の一部に第三者が居住していた場合は空き家ではないため対象外です。
D.相続後に一部でも利用したら対象外
相続で空き家となっても、その後建物の一部でも新たに利用がされると建物全体が特例対象外になります。状況変化を見るのですから、有償か無償かは関係ありません。
E.被相続人が相続発生時に老人ホーム等に入居していた場合
生前に老人ホーム等に入居して特例を利用したい場合は、入居後に賃貸等をしないでください。相続時点で被相続人の家だったということが要件なので、新たに何らかの利用をしてはいけません。また、相続に準じて空き家になったという性質上、老人ホーム等の入居時に要支援または要介護状態である必要があります。
この他にも細かな取り扱いがありますが、「空き家になるか否か」がポイントだと考えれば間違いないでしょう。
空き家の利用計画と一緒に上手な節税対策も考える
それでは、空き家の特例の対象外となるケースにおいて、相続後の空き家に相続人が居住し、その数年後に譲渡した場合はどうなるでしょう。こうなると、空き家ではなく自宅を譲渡した場合の3,000万円控除の適用対象へと変わります。例えば前述のBの場合、空き家として売却すると母屋のみが空き家特例の対象です。
しかし、相続後に居住して自宅として売却すると、世間一般的に自宅と考えられるものであれば居住用の特例範囲になります。母屋と一体利用していれば、離れ、蔵などの敷地もそのすべてが含まれます。しかも、相続開始から3年10ヵ月以内の譲渡であれば相続税の取得費加算の特例との併用も可能になります。ただし、それが居住実態のない一時的な滞在であった場合には適用できません。逆に居住実態があれば居住期間は短くても大丈夫です。
空き家の利用も念頭に置きながら、上手な節税ができるかどうか考えるのもよいでしょう。
税理士。1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年、税理士法人エーティーオー財産相談室入社。資産税を中心とする税務申告、不動産税務コンサルティング業務などを提供。2021年、同法人代表社員に就任し、現在に至る。著書に『土地の有効活用と相続・承継対策』(税務研究会出版局)など。
税理士法人エーティーオー 財産相談室 代表社員
高木 康裕