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事業用資産の買換特例、適用是非のポイント

情報誌レッツプラザ2022年Autumn号より引用

資産の組み換えで、事業用不動産を売却して新たに別の事業用不動産を取得することがあります。その際に売却時の税負担を軽減するため、「事業用資産の買換特例」という制度を使いたいと考える方が多くおられます。しかし、適用できるケースが限られていたり、適用できても長期的な収支ではデメリットが生じる場合もあります。今回は、「事業用資産の買換特例」を適用すべきか否かについて、考え方を解説します。

事業用資産の買換特例の仕組みを理解する

不動産を売却して譲渡益が生じる際に、必ず考えなければならないのが譲渡所得税・住民税(以下、譲渡所得税等という)です。不動産を売却した場合、売却年の1月1日現在における所有期間が5年を超えていれば、譲渡益に対して所得税(復興税含む、以下同じ)が15.315%、住民税が5%の合計20.315%の税金がかかります。売却によって譲渡益、すなわち利益が生じたわけですから、ある意味仕方がありません。

しかし、売却代金で新たな不動産を取得する、つまり買い換えを行うのであれば、売却時の税金が軽減される制度があります。その一つが「事業用資産の買換特例」というものです。この特例は事業用の土地建物等を売却して、新たな事業用の土地建物等を、原則として売却年の翌年までに取得した場合に利用できます(譲渡資産の内容により、2023年3月31日、あるいは12月31日までの譲渡について適用。それ以降の適用については今後の法改正次第となります)。

事業用資産の買換特例を適用すれば、最大で譲渡益の8割を課税対象から差し引くことができます。つまり、譲渡所得税等の負担を8割引きにできるということです。ただし、この特例制度はただ税金を免除してくれるといった単純なものではありません。特例を適用すると、売却時の税金が軽減される一方、取得した土地建物等の税務上の取得価額がその分減少する仕組みになっているのです。

具体的に数字を入れて考えてみましょう(図表1)。売却代金が1億円で譲渡益は9,000万円、そして新たな不動産を1億円で取得したと仮定します。事業用資産の買換特例を適用すれば、譲渡益はその8割が軽減され1,800万円(9000万円×(1-0.8))となり、その分の税負担が減少します。

ところが、この特例を適用すると新たに取得した不動産の税務上の取得価額は、購入金額の1億円ではなく、そこから軽減された譲渡益7,200万円(9,000万円×0.8)を差し引いた2,800万円になってしまいます。そのため、この新たな不動産を次に売却した際、軽減された譲渡益7,200万円が上乗せされ、税金が取り戻されてしまうのです。これが、この特例が「課税の繰り延べ制度」と言われる所以です。

減価償却費への影響を考える

事業用資産の買換特例では、譲渡資産と買換資産が一定の組み合わせである必要があります。組み合わせ方法は5パターンあるのですが、使い勝手がよくて実務的に最も利用されているのが、10年超の長期所有土地建物等を譲渡した場合の特例で、要件は次の通りです。

譲渡資産(売却資産)……国内にある土地等、建物または構築物で所有期間が10年超のもの
買換資産(購入資産)……事務所、住宅等の敷地の用に供される国内の土地等で地積が300㎡以上のもの、建物または構築物

この要件を見ると、買換資産が土地の場合は地積が300㎡以上必要です。つまり、約100坪の土地を取得する資金が最低限必要になるのです。郊外であれば選択肢も多いでしょうが、東京23区、特に都心であれば土地だけでも相当な金額に上るでしょう。

また、区分所有の分譲マンションを買換資産にするのであれば、かなりの戸数を購入しないと取得する部屋の敷地相当は300㎡以上にはなり得ません。このように、現実的には土地を買換資産にすることは難しく、その対象は建物にならざるを得ないことが実態としては結構あるのです。

それでは、建物を対象に事業用資産の買換特例を適用した場合を考えます。先ほど述べたように、この特例を適用すると売却時に軽減された譲渡益は買換資産の取得価額から差し引かれます。土地が買換資産であれば、その影響が出てくるのは次に売却したときです。ところが、建物だとそういう訳にはいきません。なぜなら、事業用の建物のため減価償却費に影響が生じるからです。

先ほどの例であれば、1億円の購入金額であっても取得価額は2,800万円になり、買換特例を適用しなかった場合と比べると7,200万円減少します。そのため、減価償却費の総額が7,200万円減って、その分毎年の所得が増加するのです。

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