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新制度「配偶者居住権」、その仕組みと相続税への影響

情報誌レッツプラザ2021年9月号より引用

民法の改正によって、2020年4月1日から配偶者居住権という新しい制度が導入されました。今までにない、まったく新しい制度ということもあって、まだまだ知らない方も多いのではないでしょうか。使い方によっては相続税の節税にもなり得る可能性があるこの制度、その内容を押さえましょう。

相続税の節税は?

配偶者居住権を設定すると、相続税の節税につながる可能性があります。先ほどのケースで考えてみましょう。まずは配偶者居住権を設定しない場合です。一次相続では妻が自宅4,000万円と預貯金500万円を相続します。話を簡単にするため、妻に固有財産はなく、一次相続から財産の変動がないと仮定します。この場合、二次相続の対象は妻が一次相続で取得した4,500万円です。

配偶者居住権を設定しない場合
◆一次相続
妻……自宅4,000万円+預貯金500万円
子……預貯金4,500万円 
◆二次相続
子……自宅4,000万円+預貯金500万円(妻の一次相続財産)

それでは、このケースで配偶者居住権を設定した場合を考えましょう。配偶者居住権の評価額が2,000万円であったとするとどうなるでしょう。二次相続の対象は先ほどの4,500万円が次のとおり2,500万円に減少する結果になりました。

配偶者居住権を設定する場合
◆一次相続  
妻……配偶者居住権2,000万円+預貯金2,500万円
子……自宅(負担付き所有権)2,000万円+預貯金2,500万円 
◆二次相続
子……預貯金2,500万円(配偶者居住権を除く妻の一次相続財産)

配偶者居住権は妻が生きている間の権利です。時間の経過とともに価値が少しずつ減少し、妻が死亡するとその権利は消滅します。したがって、配偶者居住権は二次相続の対象には絶対にならないのです。つまり、一次相続のときに、子は自宅という財産を低い金額で相続できたということです。

なお、実際には小規模宅地等の特例という自宅の評価額を減額することができる制度が影響するため、もっと複雑になります。そのため、小規模宅地等の特例を上手に活用できなかった場合には、一次相続の財産が逆に増加してしまうかもしれません。まとめると、一次相続時の税負担ではメリットはありませんが、二次相続では配偶者居住権の分だけ相続財産が減少するということです。小規模宅地等への影響もよく考えて、相続税のシュレーションを行った上での利用がよいでしょう。

実際の利用にあたって注意すること

配偶者居住権は遺産分割を調整するための方法にもなり得ますし、うまく使えば相続税の節税になる可能性も秘めています。ただし、利用にあたっては注意すべきこともあります。例えば、配偶者居住権は譲渡をすることができず、それ自体に換金価値がありません。老人ホームに入りたいなどの理由でお金にしたくとも売れない財産なのです。

また、自宅の所有者となっていた子が配偶者より先に死亡した場合は、孫世代が自宅を相続することになるでしょう。配偶者居住権という制限付き不動産を、相続税を支払って承継します。一次相続の当事者ではないのですから、納得できる方ばかりではないかもしれません。相続は円満な分割が一番です。税金だけにとらわれて配偶者居住権がトラブルの元にならないようにしましょう。

税理士。1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年、税理士法人エーティーオー財産相談室入社。資産税を中心とする税務申告、不動産税務コンサルティング業務などを提供。2021年、同法人代表社員に就任し、現在に至る。著書に『土地の有効活用と相続・承継対策』(税務研究会出版局)など。

税理士法人エーティーオー 財産相談室 代表社員

高木 康裕

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