個人が賃貸用不動産を取得すると、所得税のルールに従って税務処理を進めることになります。今回は、これから不動産経営を始める方に向けて、個人が賃貸用不動産を取得した際の税務上のポイントを整理しました。注意が必要なのは、法人が賃貸用不動産を取得した場合とは異なるルールが多いことです。すでに不動産経営を行っている方もぜひ改めて確認してください。
固定資産計上時における税務上のポイント
取得した不動産を計上する際、減価償却に関わる以下の事柄がポイントになります。
❶売買金額は土地と建物で区分するのが必須
土地と建物を一括取得した際、あるいは中古マンションを取得した際、売買金額の総額のみが契約書に記載され、土地と建物の内訳がわからないケースが多々あります。消費税は建物にしか課税されないため、契約書に消費税の記載があれば土地と建物それぞれの金額を逆算することができますが、売主が個人の場合は課税事業者でない場合が多く、記載されていないケースも少なくありません。
しかしこのような場合でも、取得者(買主)は何らかの方法で売買金額を土地と建物に区分する必要があります。建物はその後、減価償却をする必要があるためです。土地と建物を区分する方法としては次に挙げる方法があります。
①時価比率で按分
②相続税評価額または固定資産税評額の比率で按分
③土地の価額を算定して総額から差し引き、残りを建物とする
④建物の価額を算定して総額から差し引き、残りを土地とする
③と④はいわゆる「差引法」ですが、この方法は土地や建物価額の算定の妥当性が求められる他、売買金額が高額あるいは低額だった場合に金額の比率が土地と建物のどちらかに偏り、実態と大きく乖離する可能性があります。
そのため、「按分法」といわれる①か②により計算することが合理的であるといえます。しかし①については、不動産鑑定資料等がなければ土地と建物それぞれの時価を測定するのは困難です。そのため、実務的には②の固定資産税評価額等の比率による按分を多く採用しています。
❷構造により建物と建物附属設備を区分する
電気設備や給排水設備などの建物附属設備には、建物本体とは異なる耐用年数が定められています。建物には、鉄骨造(S造)を含む金属造、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、木造(W造)などがあり、そのうち金属造やRC造、SRC造は、建物と建物附属設備を区分して減価償却費を算出する必要があります(木造の場合は区分しなくてもよいと定められています)。
しかし、売買契約書などに建物と建物附属設備の区分が記載されていない場合はどうしたらよいのでしょう。過去の裁決事例に新築時の工事費割合を調べたものがあり、その事例では建物69・6%、建物附属設備30・4%となっています。あくまで私見になりますが、裁決事例を参考にすると建物と建物附属設備の新築時の工事費割合が7対3程度であるとして、購入時までの経過年数を考慮したうえで区分をしても実務上は許容されるであろうと思われます。
❸中古資産取得時には耐用年数の選択に注意する
耐用年数には資産の種類ごとに定められた「法定耐用年数」があり、減価償却費を計算する際には法定耐用年数を用いなければなりませんが、中古資産は法定耐用年数の代わりに合理的に見積った耐用年数を利用してもよいとされています。
しかし実際には、合理的な見積りを行うことは難しいため、実務的に図表1の計算式による年数を中古資産の耐用年数として採用することができます。
なお、法定耐用年数を使うか中古資産の耐用年数を使うかで減価償却費は変わりますが、どちらにするかは中古資産を取得した年に決める必要があります。また、取得年に法定耐用年数で計算した場合、2年目以降に変更することはできません。
何もしなければ自動的に法定耐用年数で処理されますので、中古資産の耐用年数を採用する場合は取得年に行うことを忘れないようにしましょう。
❹毎年の減価償却は強制なので計上を忘れない
個人に課せられる所得税における減価償却は、毎年強制で行う扱いになっています。減価償却費の経費への計上をうっかり忘れてしまったとしても、それは計上しなかっただけで、減価償却自体は行っていたものとみなされます。
したがって、次年度に繰り越す未償却残高では、計上しなかった年の分も勝手に減少しているのです。もしも減価償却費の計上を忘れてしまった場合には、必ず更正の請求を行って是正するようにしましょう。
なお、法人税では減価償却費の計上は任意です。所得税とは異なるため、混同しないようにしてください。
付随費用の処理に関する税務上のポイント
賃貸用不動産の取得にあたっては、仲介手数料や登録免許税、不動産取得税などの支払いもポイントになります。これらの支出は、経費計上できるものと、固定資産を取得するための付随費用として取得価額に加算するものが、次のように明確に定められています。
- 仲介手数料……取得価額に加算
- 登録免許税……経費計上
- 不動産取得税……経費計上
なお、このルールは賃貸用不動産など業務用資産に限っての取り扱いです。自宅などの非業務用資産については、上記の3つの項目すべてが固定資産の取得価額に加算されることになります。業務用か非業務用かにより処理方法が異なりますので、間違えないように注意しましょう。
ちなみに、付随費用の取り扱いも法人税ではルールが異なります。違いを比較しやすいようにまとめました(図表2)ので参考にしてください。
相続などで取得した場合の税務上のポイント
不動産の取得手段は売買に限りません。相続や贈与などで取得することもあります。このような場合にはどうなるのでしょうか。相続や贈与で賃貸用不動産を取得した場合は、被相続人あるいは贈与者の資産をそのまま引き継ぐようなイメージで考えるとよいでしょう。
相続人や受贈者が、売買などで新たに中古資産を取得したときと同様に固定資産の計上をしているケースがときどき見られますが、これは明らかな間違いです。中古資産を取得するときとは異なり資産を引き継ぐ(承継する)のですから、次のような処理方法となります。
- 取得価額……被相続人や贈与者の取得価額を引き継ぐ
- 耐用年数……承継時の耐用年数を引き継ぐ
- 未償却残高……承継時の残高を引き継ぐ
- 償却方法……引き継がない
償却方法には、毎年同じ金額を償却する「定額法」、毎年の未償却残高から同じ割合を償却する「定率法」の2種類がありますが、被相続人や贈与者が採用した方法を引き継がなければならないという考え方はありません。償却方法はあくまで個人の問題だからです。
ただし、建物は2007年4月以降、建物附属設備・構築物は2016年4月以降に承継した場合の償却方法が、定額法に限られることに注意しましょう(図表3)。また、相続や贈与に際して登記費用が生じた資産が賃貸用不動産など業務用資産だった場合は、先ほどの賃貸用不動産を購入した際と同様に経費計上し、自宅などの非業務用資産の場合は取得価額に加算します。

税理士。1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年、税理士法人エーティーオー財産相談室入社。資産税を中心とする税務申告、不動産税務コンサルティング業務などを提供。2021年、同法人代表社員に就任し、現在に至る。著書に『土地の有効活用と相続・承継対策』(税務研究会出版局)など。
税理士法人エーティーオー 財産相談室 代表社員
高木 康裕yasuhiro takagi
Let’s Plaza(年3回発刊)では、
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