情報源はまだまだあるぞ!
このような一種特別なケースを除き、税務職員がおこなうこれらの情報の収集は、いかにも彼らがやりそうであることが想像できるものでしょう。税務調査の過程で、言ってみれば業務としてついでに作成する、という意味合いもあるような気はします。そうではなく、実はもっと積極的に情報の収集をおこなう場合もあるのです。例えばデパートの外商部がそれ。デパートで外商を利用する方はシャツやパンツを買うわけではありません。オーダーのスーツ程度で利用することはあるでしょうが、高額品を購入する顧客が多いのです。貴金属、書画骨董等店頭には並べていない物を買っていただく顧客層が外商部の顧客なのです。
つまり、外商部に情報収集に行けば、いつ、誰が、どんな物を、いくらで買ったのかがわかるわけです。まずはそれ程高額な物を買えるだけの所得の申告をしているのか、最終的に相続財産として将来計上されるのか、そして決済銀行は何銀行なのか等々様々な情報が得られることになるわけです。
その他にも高級外車資料せんと言うのもあります。一般のベンツやBMW程度の車ではなく、スーパーカーとか1億円を超えるような高級外車は、いつ、誰がいくらで買ったのかを資料化することもあるのです。
これらの売上や仕入から、その内容を資料化するのは、もちろん通常の調査の過程で調査官が容易におこなえるものであることは、ご理解いただけたことでしょう。それでは高額な書画骨董、高級外車等は税務職員のどういう役割の人が情報収集をおこなっているのでしょうか。
実は税務署や国税局にはその手の作業を専門にやっている人達がいるのです。資料源の開発という言い方をしますが、どこへ行ったら調査の際に有効な情報が、あるいは申告漏れが生じそうな情報が得られそうか、日夜それだけのために励んでいる部署があるのです。
鬼より怖い“査察”と“リョーチョー”
その最たるものが国税局の査察部と資料調査課、通称リョーチョーでしょう。場合によっては、甲さんの調査の過程で結果的に乙さん、丙さんの預金情報を金融機関で収集できてしまうこともあるでしょう。本来は甲さんの調査なのですから、甲さん以外の乙さん、丙さんのことを調べるのは違法でしょうが、横目でちらっと見て情報収集することから、横目資料とも呼ばれています。また、週刊誌や新聞紙上で掲載されたことをヒントに、実態を解明し調査に選定、着手することもあるのです。特に上記のリョーチョーは各種の情報収集をしては、税務署や査察部に連絡し、自らが調査もおこなうこともあるのです。何はともあれ、税務署も国税局も必死になって不正に繋がるネタを見つけようとしています。善良な市民には全く関係のない話ですが、世の中にはそれだけ悪い人間が多いということなのでしょうか。
資料の収集も税務職員の手柄のひとつ
上記のリョーチョーや査察のように、これらの資料の収集が本来の業務である部署は別として、税務職員はなぜこれほど熱心に本来の調査以外の業務をおこなうのでしょうか。
先ほど、正義感や義務感の話をしました。もちろんそんな気持ちもあるのは事実ですが、最も大きな要因は、自らも調査の過程において、資料せんのおかげで助けられ、実績に繋がった経験が挙げられます。言ってみればお互い様なのです。調査官はお互いに助け助けられてより効率的な調査がおこなえるのです。調査官の連帯感と言えるかもしれません。
ただ、それだけではありません。実は調査での実績は、年間に何件の事案をこなしたという調査件数と、その結果どれ程の増差(調査をおこなったことによる調査前と調査後による税額等の増減差額)を挙げられたかということが最重要項目なのです。しかし、それに次いで、どれだけの枚数の資料せんを収集したかということも、大切な実績のひとつなのです。
とりわけ重要資料せんについては、その収集によって調査での実際の活用の結果、どれだけの実績を挙げられたのかまでが報告される仕組みになっているのです。
このように自身の実績になるという事実は確かにあります。が、しかし、それ以上にやはり、調査官同士助け助けられて調査ができるという絆が強い組織であることは間違いなさそうです。とにもかくにも、税務調査はこれらの絆にも助けられ、様々な情報収集があって効率的になされていることは間違いありません。
※本記事は2019年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
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