土地資産家のための税務講座

相続における広大地評価の大改正!

相続税に関心のある方なら、『広大地』という言葉をご存じの方も多いと思います。
読んで字のごとく面積の広い土地のことですが、一定の条件に当てはまると原則的な評価額から大幅な減額ができる特例が用意されているのです。
実は、この特例の適否については実務上判然とした指標がなく、税務当局との間で判定をめぐってたびたび問題となることも多かったのです。
その改正案が平成29年6月に国税庁より発表されました。
面積や所在地要件を満たせば対象になりやすくはなったのですが、減額幅は大幅ダウン。
今後の対応策を探ってみました。

改正後の広大地の概要

税務当局も裁判では勝訴したものの、さすがにその強引さ、無理強いに気づいたのでしょうか。この判決に対しては、相当な異論があったのも事実です。そんな背景に加えて、広大地の適否に客観性を求める声が多く、今回大幅な改正案が公表されたのです。

まず、“広大地”という表現を改め、『地積規模の大きな宅地の評価』としています。両者の名称の相違点は筆者には意味不明で、広大地のままで良さそうな気もしますが…。しかし、適用要件は明らかに客観的で、これなら適否に疑問はありません。具体的には、 ①地積が500㎡以上(三大都市圏以外は1,000㎡以上)であること、 ②開発行為が可能な区域以外の市街化調整区域、工業専用地域、容積率400%以上(東京都23区は300%以上)の地域に所在しないこと、 ③宅地が普通商業・併用住宅地区、及び普通住宅地区として定められた地域に所在すること等となっています。

現行の“標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大”というような、相対的かつ曖昧な判断は不要となっています。面積(地積)と所在地域という客観的かつ明確な基準だけで判断ができるようになったのです。

しかし、問題は広大地評価額の減額幅。改正後の広大地の評価は次頁の算式(表2)のとおりです。ケーススタディをご覧いただくとおわかりのとおり、広大地評価額の減額幅が大きく減少してしまうのです。

今後の対応策は…

この改正案ですが、まだ国税庁からのパブリックコメントの段階ではあるものの、ほぼこの内容で改正されると予想されます。その場合は平成30年1月1日以降の相続について適用となっています。従って本年中の相続であれば現行通りの広大地評価、年が明ければケーススタディのように2,300万円増大の評価となります。面積が大きくなれば減額幅はさらに縮小し、現行との評価差額は増大します。とは言っても相続開始の時期は神のみぞ知る。人間には何もできないのでしょうか。

残された道は唯一、人為的な贈与です。贈与の場合も相続と全く同じ扱いです。しかし、贈与税の負担は重い。そこで、お勧めするのが『相続時精算課税制度』による贈与です。制度について詳述は致しませんが、2,500万円までは非課税で、それを超える部分に税率20%の贈与税が課されます。先程の原則評価1億円の土地であれば、現行の広大地評価で5,500万円。そこから2,500万円を控除した残額に20%を乗じると600万円という贈与税額が算出されます。年内に贈与をすれば、600万円の贈与税で将来の相続時にも土地の評価は5,500万円で固定されます。しかも600万円の贈与税は実際の相続税額から控除されるため、実質的には単なる相続税の前払いです。

相続時精算課税による贈与は、このように実際の相続時の評価にこだわらず、贈与時点での評価額で相続税が課税されます。従って、将来の相続時に時価が今より上がっていればお得に、逆に下がっていれば損をすることにもなってしまいます。先のことはそれこそ前述のとおり、神のみぞ知る話ではあります。が、広大地評価と『地積規模の大きな宅地の評価』、さらに地価の動向を踏まえ、時間切れになる前にどちらが得か、一度検討してみることも有用でしょう。

※本記事は2017年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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