サブリース方式とは
賃貸住宅等の賃貸方式の一つに「サブリース方式」と呼ばれる方法があります。これは、建物オーナーが直接入居者と賃貸借契約を結ぶのではなく、サブリース会社が一括で賃貸住宅等の建物を借り上げて、個々の入居者に転貸する方法です(図1)。
地方圏の賃貸住宅がサブリース方式で急増
実は、このサブリース方式について、最近、問題になっていることがあります。というのは、一部の賃貸アパート建設業者が、地方圏や郊外部の交通利便性のあまりよくないエリアで、農家の地主さんに、相続対策等を目的とした賃貸経営を、サブリース方式での30年間といった長期での一括借上をうたって強引に進めているのです。
もともと、賃貸経営にとって最も大きなリスクは、入居者すなわち賃借人が安定的に確保できるかどうかという空室リスクです。ところが、サブリース方式で事業者に長期の一括借上をしてもらえば、一見、この空室リスクは解消されて全くリスクのない賃貸経営が可能のように思われます。しかし、賃貸経営には、空室リスクの他に賃料下落リスクがあります。サブリース方式を活用することで空室リスクは解消できますが、賃料下落リスクは解消できないため、サブリース方式で賃貸経営をする際にも、マーケットの調査などにより将来にわたるテナントニーズの分析や周辺状況の調査を十分検討のうえ、事業に踏み切る必要があります。
地方圏や郊外部の賃貸需要の弱いエリアでは、築年数が経るにつれ、賃料改定によって家賃が引き下げられ、建物オーナーの借入金返済にも支障をきたすといった事態が発生し、それがマスコミなどで取り上げられているのです。
実際に2016年の新設住宅着工戸数を見ると、三大都市圏以外の圏域での貸家着工数は対前年比11.5%増と、首都圏での対前年比10.1%を上回っています(図2)。地方圏での人口減少、世帯数減少、高齢化などが加速する中でのこの現象は、やはり異常なものと考えられます。
サブリース方式のメリットと留意点
こうしたマスコミ等での報道から、「サブリース方式」自体を危険なものだと敬遠する方もおられますが、サブリース方式には、次のような大きな「メリット」があります。
➀ 空室・滞納リスクの回避
・前述の通り、建物オーナーは契約期間中の空室や滞納リスクを回避できます。
➁ 運営管理負担の軽減
・実際の入居者との契約はサブリース会社になるため、貸主としての責任や入居者への対応をすべてサブリース会社に任せることが可能です。
➂ 入居者トラブルからの回避
・日常の入居者対応のみならず、家賃滞納や退去時のトラブル、訴訟対応等といったトラブルもサブリース会社が対応することになります。
➃ 収支管理のシンプル化
・サブリース会社から決められた時期に一棟分の家賃が入るため、収支管理が単純になり、借入返済や確定申告等の管理も楽になります。
一方で、サブリース方式には次のような「留意点」もあります。
➀ 家賃は固定ではない
・前述の通り、サブリース会社が建物オーナーに支払う家賃は契約期間中固定されるのではなく、周辺の家賃相場や空室率などに応じて改定されます。
➁ 礼金や更新料は収入にならない
・入居者と契約するのはサブリース会社なので、入居者の支払う礼金や更新料は原則サブリース会社の収入となります。また、敷金も通常はサブリース会社の預かりとなります。一方で、入居者募集時の広告費や仲介手数料は、貸主たるサブリース会社が負担することとなります。
➂ サブリース会社の倒産リスク
・サブリース会社が倒産すると、サブリース契約は解除され、敷金返還などの入居者への債務を引き受けるリスクがあります。
サブリース方式は、賃貸経営のリスクや手間を大幅に軽減できる手法ではありますが、そもそも賃貸需要の低いエリアでの賃貸経営を可能とするものではありません。周辺マーケットや競合物件などの十分な検証を実施することが必要です。また、サブリース会社によって業務範囲や補償内容が異なるため、一概に利回りの比較だけでなく、契約内容を見極めて会社を選定することが大切です。
※本記事は2017年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。
株式会社アークブレイン
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