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スペシャリスト ビュー

應義塾大学 医学部 精神・神経科 専任講師 岸本 泰士郎 氏

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医療分野における人工知能の活用は、今後さらに加速していくと思います。人工知能が様々なかたちで医師をサポートし、診断精度や治療成績を上げるスキルとして使われる機会は今後ますます増えていくでしょう。事実、医療分野で人工知能がその力を発揮できる領域は確実に広がっており、私も委員を務めた厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」など様々な取り組みを通じて、国としても人工知能を活用して、よりよい医療を追求していく方向に進んでいます。

その一方で、医療の現場において人間である医師が担うべき役割もより明確になっていくでしょう。現実の医療の現場で培ってきた経験則や鋭敏な感覚を持って患者さんと直接対面し、その話を聞いたり、共感したり、支えていく。そんな医師の姿勢は、変わることなく今後も求められるはずです。こうした人間的な医療行為を一部の領域においては人間の能力を超えうる人工知能の力で支援することによって、今後、医学や健康管理分野は確実に進歩していくと思います。

現在、厚生労働省はICTを活用した「次世代型保健医療システム」の実現を目指しており、そのインフラとなる「次世代型ヘルスケアマネジメントシステム」の構築と、健診データや電子カルテなど国民の基本的な保健医療データを統合した情報基盤「PeOPLe(ピープル)」の整備に向けた取り組みをスタートさせました。人々の健康や医療に関する膨大なデータを有効活用するこの構想でも、人工知能によるデータ分析などが不可欠になります。

この構想が実現すれば、「PHR」(※)と呼ばれる個人の健康医療データを人工知能が詳しく解析することで、「どういう人がどうすると病気になる」とか、「どうすれば症状が軽減する」とか、「こういう人がこんな病気になりやすい」といったヘルスケアの傾向が把握できるようになり、さらにデータを集約・管理して、医療機関で共有することで、どの病院でも自分の状態に適した医療が受けられるようになるでしょう。

もちろん、こうした秘匿性の高い個人データを取り扱ううえで、プライバシーや健康状態を理由にした差別といった課題にも、対応していかなければなりません。歴史を振り返っても、人々の想像を超える新しい技術に社会や倫理観が追いつかない、ということは過去にもありました。ですから、ICTや人工知能を使った医療が確立されていく過程では、私たちのような医学に携わる人間と、法律や倫理、社会学などの専門家との連携や協働が不可欠でしょう。ヘルスケアや先端技術の領域だけでなく、より広範で総合的な知見を持ち寄って、細心の注意を払いながら、医学・医療の進歩・発展を推し進めていくことが大切だと思います。
※PHR・・・Personal Health Records

※本記事は2017年10月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

医学部 精神・神経科 専任講師
2000年慶應義塾大学医学部卒業、国家公務員共済組合連合会立川病院神経科、医療法人財団厚生協会大泉病院、米国The Zucker Hillside Hospitalなどを経て、2013年04月より現職。主な研究プロジェクトは臨床精神薬理、遠隔医療、機械学習の精神科領域への応用など。2017年より「遠隔精神科医療の臨床研究エビデンスの蓄積を通じたガイドライン策定とデータ利活用に向けたデータベース構築」研究代表者などを務める。

慶應義塾大学

岸本 泰士郎 氏

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