スペシャリスト ビュー

税理士法人つむぎコンサルティング 代表パートナー/公認会計士 税理士 笹島 修平 氏

大切な資産と家族への想いを託す相続対策の新手法。
これまでとまったく異なる“信託”という選択が、家族の絆を紡いでいく。

社会の高齢化が進み、認知症も急増する現在、資産管理・承継の新たな手法に注目が集まっています。それが、不動産や預貯金といった大切な資産を信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる仕組み、いわゆる「家族信託」です。

財産管理委任契約や成年後見制度、さらには遺言といった従来の資産管理・承継の手法ではかなえられなかったことを実現し、相続や資産承継についての様々な悩みを解決できるという家族信託とは、どんな手法か?

いち早く、その可能性に着目した家族信託に関する第一人者で、税理士法人つむぎコンサルティング代表パートナーである笹島修平氏にお話を伺いました。

贈与後も財産を管理できる
新しい資産管理・承継の手法

家族信託という手法が注目を集めるきっかけとなったのは、2007年9月の新信託法の施行です。従来、大切な財産を預かる信託という行為は、金融庁の免許を持った信託銀行や信託会社でなければできないとする考え方もありましたが、新信託法によって、家族同士が当事者となる民事信託、つまり家族信託も明確に認められ、そのための制度もしっかりと整備されたのです。


信託という仕組みには、3人の登場人物がいます。それは、財産を預ける「委託者」、委託者から財産を預かって管理する「受託者」、財産から得られる収益を受け取る「受益者」です(図1)。信託された財産(信託財産)の所有権は、委託者から受託者に移ります。信託財産が不動産の場合、賃貸借契約など不動産にまつわる契約は受託者が結び、不動産から得られる賃貸収入や不動産売却代金などは受託者の口座に振り込まれます。受託者はその資金を管理しながら、信託契約の定めに応じて受益者に当該資金を分配できます。

例えば信託を利用せず財産を贈与した場合、収益を収受する権利を含んだ所有権が相手に移るので、その人の意思で資産が売却されたり、万一のことがあったときには、資産がその配偶者などに相続されてしまう可能性があります。一方、信託なら、受益権は受益者へ、所有権は受託者へ、さらに、所有者に対する指図権は委託者へと分離できるので、受益権だけを贈与して、資産自体は支配・管理できるのです(図2)。税務上の負担は、不動産を贈与しても受益権を贈与しても同額となります。

以上のように、受益権を贈与した後も財産を管理したいという場合のほかにも、財産から得られる収益を受け取りながら、財産管理は子に早めに委ねたいという場合(図3)、通常の遺言では不可能な二次相続以降の資産承継先の指定を希望する場合など、家族信託の有効性は幅広く、資産承継にまつわる悩みの約9割は信託の仕組みで解決できる、というのが実感です。

相続税対策か? 相続対策か?

私が最初に信託に注目したのは、2007年の夏、その年の9月に新信託法が施行されるという報道に触れた時ですが、ちょうどその頃、私はいくつかの担当案件で大きな壁にぶつかっていました。

一般に相続対策というのは「相続税」対策と思われているところがあって、当時の私もいかにしてお客様の相続税を下げるか、という点だけに腐心していました。しかし、最初こそ節税のための様々なご提案を喜んでくれたお客様が、その実施を躊躇されるというケースが何件も続いたのです。よくよくお話を聞いていくうちに、その理由がわかってきました。ほとんどのお客様は節税以上に、引き継がれた資産がどう使われるのか、先々で誰のものになっていくのか、つまり、「受益権は子に早く渡したいけれど、意思決定までできなくなるのは困る…」と、相続後の資産のあり方を心配されていたのです。

そんな時にできた新たな信託法は、前述の通り、資産の受益権と所有権、さらに所有権に対する指図権を分離できる仕組みを定めた法律です。信託という仕組みはそういう被相続人の想いを反映した資産承継にぴったりくると気づいて以来、私は信託を使って相続税対策以外の相続対策に取り組んできました。

※「家族信託」は、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。

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