何が起きた?!
Aさんは「教育資金の一括贈与の非課税制度」を利用して、息子さん方の孫1人と娘さん方の孫2人にそれぞれ1,000万円ずつ贈与しました。この制度は贈与税の非課税制度のひとつで相続税の軽減効果があり、何より子や孫に喜ばれるという、様々なメリットがあります。Aさんは資産のいい使い方ができたと満足していたのですが、後になって予想外の不都合が出てきてしまったのです。
まずは、この制度の特長を知りましょう。
「教育資金の一括贈与の非課税制度」とは、祖父母や両親などから、30歳未満の子や孫へ教育資金に使うという条件付きで贈与を受ける人1人あたり最大1,500万円までを非課税で「一括贈与」できる制度です。ただし、金融機関等に専用の口座を開設し、所定の手続きをおこなうなどの諸条件が必要となります。
数年後、老後資金に不安が。孫の人数で不公平感も。
さて、Aさんに起こった「予想外の不都合」とは何だったのでしょう。まず、孫たちのためを思い、教育資金がかかり始める前にと早めに贈与をしました。ところが、数年経ってみたらご病気に見舞われるなど、老後の生活資金に不安が生まれてしまったのです。それに、この贈与を喜んでくれたのは実際に教育費を払う息子や娘で、孫たちは有難味を実感していない様子。お年玉やお小遣いをたくさんあげた方が「おじいちゃん、おばあちゃんありがとう」と喜ぶ顔が見られたかなと思うようにもなりました。
また、3人の孫に公平に贈与したつもりでいたのですが、結果として2人の孫がいる娘さん方は2,000万円、孫が1人だけの息子さん方は1,000万円を受け取ることになり、息子さんからは不公平だと不満を言われることに。さらに、娘さんの嫁ぎ先のご両親から「(うちもこの制度を利用したかったので)事前に相談してほしかった」と遠回しにチクリ。
良かれと思ってしたことが裏目に出てしまったというわけです。
この制度を上手に利用するには?
では、Aさんはどうすればよかったでしょうか? 老後の生活資金が不足するかもしれないという万が一の事態も想定して、老後の資金等は余裕を持つべきでした。そして、贈与したことで親子関係がぎくしゃくしてしまっては本末転倒です。有意義かつ気持ちよく使ってもらえるように、もっと親子でしっかりと話し合いをもつことも必要だったのではないでしょうか。
多額にかかる教育資金を手助けし、節税効果がある有益な制度ではあるものの、逆に教育資金でしか使うことができません。また、贈与した財産が使い切れない場合は子や孫に贈与税がかかるなど注意しなければいけない点があります。特に節税が目的ではない場合は、例えば、お孫さんの成長に合わせて、年間110万円までなら非課税となる暦年贈与を利用する考え方もあります。贈与には様々な制度があり、これら制度の利用にあたっては税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
Aさんのように、せっかくの思いやりが後悔に変わってしまわないよう、大切な財産の上手な利用を心掛けたいですね。
※本記事は2020年1月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。