となりの相続事情

子どものいないご夫婦に、相続争い勃発のなぜ!?

何が起きた?!

Aさん(ご主人)とBさん(奥様)はお子さんのいないご夫婦でした。Aさんの死亡により相続が発生しましたが、生前「うちは子どもがいないから、Bに全財産を残せるね」と言っており、Bさんもすっかりそのつもりでいました。ところが、税理士さんに相続手続きの相談をしたところ、なんと! Bさんの単独相続ではなく、甥や姪も相続人になることが発覚。甥と姪は法定相続分を要求してきたのです。

兄弟姉妹死亡後は、その子どもたちが法定相続人に。

ここで、相続対象となる親族の関係を整理しましょう。まず、Aさんには2人の兄CさんとDさんがいました。どちらもすでに他界していますが、Cさんには息子Xさん(Bさんからすると甥)、Dさんには娘Yさん(Bさんからすると姪)がいます。税理士さんの指摘によれば、このXさんとYさんが法定相続人になるとのことでした。

それでも、Bさんは「XさんとYさんとはあまりお付き合いもなく、関わりも浅かったので、きっと相続放棄してくれるはず」と思っていたのですが、現実はそうはいかず。XさんとYさんは法定相続分を要求してきました。

遺産分割のために自宅を売却するという危急の事態も!

このケースの場合、奥様のBさんの法定相続分は4分の3、XさんとYさんは残りの4分の1、すなわちそれぞれ8分の1ずつとなります。Bさんの相続財産は自宅の土地と建物、少々の現金でしたので、XさんとYさんに渡す現金は手元にはありません。とても不安になったのですが、Aさんの生命保険の受取人がBさんになっていたため、その保険金を使ってXさん、Yさんへの遺産分割を済ませることができました。そうでなければ自宅を売却するなどして遺産分割のための現金をつくるしかなかったので、この保険金があってよかったと胸をなでおろしました。でも、大切な保険金がなくなってしまったのも事実です。

遺言書があれば事態は逆転。全財産が奥様のものに。

では、このような事態を招かないためにはどうすればよかったのでしょうか? その決め手は「遺言書」です。Aさんが生前に「Bさんに全財産を残す」旨を明記した遺言書を作成しておけば、Bさんが全財産を相続することができました。たったそれだけです。

今回のように、法定相続人が配偶者Bさんと被相続人Aさんの兄弟姉妹(死亡の場合は甥、姪)のみの場合、遺言書があれば、兄弟姉妹には遺留分(一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限の遺産取得分のこと)は発生しません(※)。遺言書の有無が、配偶者のBさんが全財産を相続できるかどうかの分岐点になるということです。

遺言書というと大げさに考えてしまいがちですが、そんなことはありません。作成の仕方などについては、ここでは割愛しますが、遺言書の重要性をしっかりと認識しておくことが大切です。今回のAさん、Bさんのようにちょっとした勘違いから相続トラブルに発展しないためにも、ご夫婦やご家族で話し合っておくことをお勧めします。

(※)遺言書があっても、被相続人Aさんの兄弟以外の相続人、例えばAさんにお子様がいる場合や親が生存している場合は遺留分が発生します。その場合の遺留分は法定相続分の半分となります。

※本記事は2019年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

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