となりの相続事情

「杭を残して悔いを残さず」境界確認トラブルで・・・。

何が起きた?!

今回ご紹介するのは、隣地との境界確認にまつわるトラブル。亡くなったお父様が所有されていた駐車場の土地を、お母様とご長男が半分ずつ相続し、売却して相続税の納付や今後の生活資金にしようと考えていました。

売却希望土地に隣地との境界標がない。

相続が発生してから約5か月後、税理士から相続税額の概算の報告がありました。そこで、そろそろ駐車場の土地を売却する準備を始めようと不動産仲介会社に相談したところ、売却想定価格はご長男の予想より高い金額の提示があり、相続税の納付も賄えることがわかり、それは喜ばしいことでした。しかし、ここで大きな問題が。提示された金額で売却するためには、当該の土地は隣地や道路との境界確認が未了の土地のため、売却までに隣地の土地所有者と境界確認書を取り交わして「確定測量図」を交付することが必要だということがわかったのです。確定測量図の交付がなくても売却はできるが、価格がかなり下がってしまうとのことでした。

さらに、仲介会社が調べたところ、境界標のほとんどは見つかりましたが、1か所だけ隣地との境界標がないため、改めて設置する必要があります。測量士に確定測量を依頼する場合の見積りは100万円近い金額でした。しかも、道路との境界確認は3か月近くかかるとのこと。

隣地所有者との境界確認に手こずって。

そして、何より困ったのは隣地の所有者との境界確認でした。ご長男との境界立会いとなると、測量士が示した境界についてなかなか承認してくれません。それでも幾度かお願いし、何とか境界について承認をいただくことができました。

本来であれば、隣地の所有者と亡くなったお父様は年齢が近いこともあり、ご近所づきあいもあったうえに、境界の歴史について共通の認識を持っていたためお互いに納得も早く、それほどトラブルになることもなく話は進んだはず。世代交代してしまったこの期に及んでは、年上の隣地所有者の方が歴史をよく知っているという自負もあってか、話がかみ合わなくなってしまったのです。

測量に要する期間に加え、道路の境界確認と隣地所有者との話し合いに時間がかかったため、相続税納付は期限に間に合わせることができず、結果として延納することになり、延納に係る想定外の出費も生じてしまいました。

土地の確定測量は、所有者がお元気なうちに。

「今から思えば、父が元気なうちに確定測量をしておくべきでした」とご長男は振り返ります。確定測量にかかる費用も、相続発生前に必要なことに使えば相続税対策になります。そして何より、隣地所有者と対等な立場で境界を確認するためには、お互いに歴史を知るお父様が立ち会った方がスムーズだったはずです。生前に測量が完了していれば、余裕を持って相続税の納付もできたことでしょう。

「杭を残して悔いを残さず」――これは土地家屋調査士業界での標語ですが、ご長男にとってはまさにその通りの出来事だったと言えるようです。

※本記事は2018年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

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