国税庁のホームページに『広大地の評価における「中高層の集合住宅等」の範囲』と題する質疑応答事例が掲載されています。
その内容は、以下のとおりです。
広大地の評価における「中高層の集合住宅等」の範囲
【照会要旨】
広大地の評価において、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」が広大地の対象から除かれていますが、中高層の集合住宅等とはどのようなものをいうのでしょうか。
【回答要旨】
「中高層」には、原則として「地上階数3以上」のものが該当します。
また、「集合住宅等」には、分譲マンションのほか、賃貸マンション等も含まれます。
【関係法令通達】
財産評価基本通達 24-4
注記
平成22年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。
(国税庁WEBサイトより)
この文章を素直に読むと、3階建ての賃貸マンションが建っている敷地は即、広大地に該当しないという誤解を生じる恐れがあります。これは極めて重要な問題があると思い、あえて本来の意味を考察しようとするものです。
これと同じく『広大地の評価における「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」の判断』という記載があります。長くて恐縮ですが、下記のとおりです。
広大地の評価における「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」の判断
【照会要旨】
広大地の評価において、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」とは具体的にどのようなものをいうのでしょうか。
【回答要旨】
評価対象地が、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」(中高層の集合住宅等の敷地用地として使用するのが最有効使用と認められるもの)かどうかの判断については、その宅地の存する地域の標準的使用の状況を参考とすることになります。
しかし、戸建住宅と中高層の集合住宅等が混在する地域(主に都市計画により指定された容積率(指定容積率)が200%以下の地域)にある場合には、最有効使用の判定が困難な場合もあることから、例えば、次のように「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に該当すると判断できる場合を除いて、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」には該当しないこととして差し支えありません。
(1)その地域における用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制等が厳しくなく、交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性(社会的・経済的・行政的見地)から判断して中高層の集合住宅等の敷地用地に適していると認められる場合
(2)その地域に現に中高層の集合住宅等が建てられており、また、現在も建築工事中のものが多数ある場合、つまり、中高層の集合住宅等の敷地としての利用に地域が移行しつつある状態で、しかもその移行の程度が相当進んでいる場合
一方で、指定容積率が300%以上の地域内にある場合には、戸建住宅の敷地用地として利用するよりも中高層の集合住宅等の敷地用地として利用する方が最有効使用と判断される場合が多いことから、原則として「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」に該当することになります。
地域によっては、指定容積率が300%以上でありながら、戸建住宅が多く存在する地域もありますが、このような地域は指定容積率を十分に活用しておらず、(1)将来的にその戸建住宅を取り壊したとすれば、中高層の集合住宅等が建築されるものと認められる地域か、あるいは、(2)例えば道路の幅員(参考)などの何らかの事情により指定容積率を活用することができない地域であると考えられます。したがって、(2)のような例外的な場合を除き、評価対象地が存する地域の指定容積率が300%以上である場合には、「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」と判断することになります。
(参考)
指定容積率のほか、前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のもの)の幅員が12m未満である建築物の容積率は、当該前面道路の幅員のメートルの数値に下表の数値を乗じたもの以下でなければならないとされています(建築基準法第52条第2項)。
建築物のある地域 | 前面道路の幅員のメートル数値に乗ずべき数値 |
---|---|
第1種・第2種低層住居専用地域 | 4/10 |
第1種・第2種中高層住居専用地域 第1種・第2種住居地域、準住居地域 (高層住居誘導地区内の |
4/10(特定行政庁が |
その他の地域 | 6/10 |
【関係法令通達】
財産評価基本通達 24-4
建築基準法第52条
注記
平成22年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。
(国税庁WEBサイトより)
私が考える「中高層の集合住宅の敷地用地に適しているもの」(以下、「マンション適地」)は上記の「判断」と同じ考え方ですが、次のように付加するのが妥当と思います。
「マンション適地」か「マンション適地ではない」かの見分け方とは
鑑定評価基準に則して、対象不動産の最有効使用の判定をする場合、結果として中高層の共同住宅用地(3階建て賃貸マンションも含む)と決定したなら、それがマンション適地となります。
この最有効使用の判定に必要な項目は下記の通りです。
(1)都市計画法上の用途地域等(第1種低層住居専用地域は高さが10m等に制限されるため準都心部以外はマンション適地から、ほとんど除かれます。つまり極めて限られた範囲になります)
(2)容積率(60~100%)は上記(1)との関係もありますが、原則としてマンション適地とは言えません。後で鑑定評価上の収益価格で証明します。
(3)最寄駅からの距離:バス便や1,200m(徒歩15分)以上は例外を除いてマンション適地とは言えません。徒歩15分以上において地主が行う賃貸マンションの経営は可能ですが、それは土地の原価がほぼゼロだから可能なのであって、経営者的感覚のある投資家は相当な利回りを要求するためマンション適地ではなくなります。これも後で証明します。
(4)道路幅員(4m未満の幅員ではマンション適地というのは…ほとんど考えられません)
(5)敷地の形状、間口等:駅に3分、容積率300%、幅員8m、面積1,000m2といっても間口が狭くへんてこりんな形状ではマンション適地とは言えません。
(6)敷地面積:特に1,000m2未満では分譲マンション業者はスケーメリットに乏しく戸建て用地になる可能性があります。賃貸マンションが存在するからといって(1)~(3)の理由から考えても即マンション適地にはなりません。
(7)対象不動産の周囲の利用状況(戸建て住宅が多いあるいは一般的):10年前までは5階建て程度の分譲マンションが建っていたが、リーマンショックを境にマンション分譲が厳しくなったため、この数年は戸建て住宅が増えている地域なのかどうか…なども調べます。
私がイメージするマンション適地とは下記のような土地になります。
(1)用途地域:第1種低層住居専用地域・工業専用地域を除く用途地域(但し、1低専でもマンション適地となることがあります。)
(2)容積率:実効容積率が200%以上(実際のボリューム計算が必要です)
(3)駅距離:最寄駅から10分以内(800m)。ただし、例外もあります。
(4)道路幅員:前面道路が6m以上
(5)敷地の形状・間口:長方形状で間口が10m以上ある土地
(6)面積:1,000m2以上(ただし、地域によっては1,500m2以上)
(7)周囲の状況:中高層のビル・マンション(5階建以上)が建ち並ぶ戸建住宅の少ない地域
これら(1)~(7)の地域要因や個別的要因を詳細に検討してマンション適地と判定することになります。
当然ですが低層戸建住宅用地と判定したなら広大地になる可能性が高くなります。単純に3~4階建てマンションが建っているからマンション用地と判定することは鑑定評価ではあり得ません。もちろん、そのような条件(ありのままの姿で)の元で値付けはされることはありますが。
では、具体例からマンション適地になるかならないか検証することにします。
地主Xさんは、次のような同一面積の2つの土地を所有しています。A地は、駐車場(賃借権は除く)として貸している更地です。B地は、築20年の3階建て鉄骨造の賃貸マンションが建っている貸家建付地です。
A地の評価(鑑定ベース)
相続税法上の広大地に認められる可能性が高いので、広大地評価は
160,000円/m2×0.55×1,000m2=88,000,000円 となります。
では、B地は同一面積、同一形状かつ同一路線価上にあるので更地評価は、88,000,000円で良いでしょうか。
もし、B地がマンション適地と判定したなら通常評価となり
160,000円/m2×0.94(奥行補正)×1,000m2=150,400,000円 となります。
さあ、ここでどちらを採用すべきでしょうか。
まず、このA地を鑑定評価方式にて時価を査定してみます。更地なので比較的簡単です。
◯最有効使用を戸建分譲用地と判定(区画割りして販売するのが一般的です)
◯開発法による査定価格(ただし、簡便法)
- 開発道路分:150m2
- 有効宅地(実際に売れる部分):850m2(1区画:約106m²)
- 造成後の更地価格:仮に160,000円/m2÷0.8=200,000円/m2と査定
- 販売価格:200,000円/m²×850m2=170,000,000円
◯造成工事費を15,000円/m2と査定
- 15,000円/m2×1,000m2=15,000,000円
- 170,000,000円-15,000,000円=155,000,000円
◯諸経費・業者利益等を販売価格の20%と査定
- 170,000,000円×20%=34,000,000円
◯造成前の更地価格
- 155,000,000円-34,000,000円=121,000,000円(121,000円/m2)
B地の評価
B地の価格も更地と考えれば、A地と同様に121,000,000円となります。しかし、B地の上には賃貸マンションがあるので、もし投資家が買うとすると、建物分がオンされるはずです。
◯建物価格・再調達原価を170,000円/m2と査定
- 170,000円/m2×1,000m2=170,000,000円
- 減価修正後価格:170,000,000円×(1-20/40)=85,000,000円
以上より、積算価格は121,000,000円+85,000,000円=206,000,000円……(A)
となりますが、もしこの価格で投資家が買うとすると投資利回りは
1,193万円(後述)÷206,000,000円=5.8%
となり、このような郊外型のそれも鉄骨造3階建てマンションを利回り5.8%で買う投資家はいないと考えるべきでしょう。
では投資家はいくらなら買うでしょうか。
▽賃貸マンションの条件(仮定)
最寄駅: | 12分 |
---|---|
空室率: | 10% |
現行家賃: | 1,700円/m2(坪5,600円) |
50m2タイプ(2DK) 85,000円/戸×18戸 | |
年間家賃収入: | 85,000円×18戸×12カ月=1,836万円……(1) |
必要諸経費: | 1,836万円×0.35=643万円(空室率込)……(2) |
年間純利益 : | (1)-(2)=1,193万円 |
総合還元利回り: | 8.5%と査定すると1,193万円÷0.085=14,000万円 収益価格を14,000万円と査定した |
これを土地・建物に配分すると((A)の比率で配分)、
- 土地:8,223万円
- 建物:5,777万円
この8,223万円は広大地評価8,800万円とほぼ近似しており、広大地評価は結果的に収益価格を織り込んだことになります。
仮にB地が広大地と認められないとすると
160,000円/m2×1,000m2×0.94×0.82(貸家建付地)=123,300,000円
となり、明らかに収益価格の土地代8,223万円を大幅(3,500万円以上)に上回ることになります。
このことより第1種低層(50/100)における3階建て鉄骨造賃貸マンションの敷地を広大地として評価した価格は鑑定評価の収益価格からみても概ね妥当な評価になることが証明されます。
これらを整理すると以下のようになります。
財産評価基本通達評価 | 鑑定評価による時価 | |
---|---|---|
更地評価 | 88,000,000円(広大地) | 121,000,000円 |
マンション適地とした場合 | 123,300,000円 (貸家建付地) |
87,500,000円 (ただし、貸家があることを前提とした土地価格) |
ご注意
本稿は私の私見を伴うこともあり、すべての物件に当てはまるわけではありません。あくまでも第1種低層住居専用地域内(50/100)において、東京近郊における標準的な住宅地をイメージしたものです。これを参考にする場合には必ず顧問の税理士さんに確認と検証の上、自らの責任においてお使い下さい。また、容積率が200%以上ある場合には収益価格の前提が全く異なるためマンション適地と認定される可能性もありますので一層のご注意をお願いします。
※本記事は2011年9月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
不動産鑑定士。昭和28年北海道生まれ。神奈川大学法学部卒。株式会社東京アプレイザル代表取締役。士業との連携も活かし、数多くの不動産を鑑定評価。平成12年には相続アドバイザー協議会を設立し、相続の専門家教育にも従事している。著書に『事例に見る 相続時の土地評価と減価要因』など。
株式会社 東京アプレイザル
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