資産承継

境界紛争を未然に防ぐには?(2)

遺留分問題に対する柔軟なアプローチを検討しよう

1.境界確認の時期

前回に引き続き、境界の確認についてお話していきたいと思います。

まず初めに、境界の確認はいつ行えばいいのかということですが、通常は、土地を売却する時や、分割する時、土地を物納する時など、土地の境界を確定しなければいけない事情が発生してから、必要に迫られて実施しているケースがほとんどです。最近は、物納制度が変わったこともあり、将来の相続に備えて測量(境界確認)を行っている方もいらっしゃいます。

境界の確認には多くの時間を要する場合があります。直ぐに売りたいとか、物納の申告期限10ヶ月に間に合わせたいとか、期限に制約があると隣接の方に足元を見られるということがあります。隣接の所有者さんと対等な立場で境界を確認するためには、お隣さんと良好な関係があり、時間的に余裕があるときに実施することが大切です。

将来の相続に備えて測量(境界確認)を行っておくということは、時間的な余裕があり大変に良いことなのですが、土地の所有者さんの体調が悪くなってから、息子さんや娘さんから依頼されることが多くあります。土地の所有者さんの体調が悪いため、現地での境界確認は、息子さんや娘さんが代理で出席されるのですが、土地のことをあまり知りません。そのためお隣の方が主張していることが正しいことなのか、違っているのかが分りません。土地のことを最もよく知っている人が現地にいないということは、それだけ不利な立場で境界確認をしなければならないということになってしまいます。

つまり土地の境界は、土地のことを一番よく知っている所有者さんが元気なうちに確認しておくことが大切なのです。

2.境界確認の相手先(境界確認書の取り交わし先)

次に、境界の確認は誰と行うのかということについてお話します。今までお話してきたように、お隣の土地所有者と境界確認を行うことが大原則なのですが、土地の所有者が複数いる場合や、土地の所有者が行方不明の場合などはどうすればよいのでしょうか? 一つ一つ見て行きましょう。なお、境界確認の相手先と、境界確認書の取り交わし先は同じです。

隣地の所有者が複数いる場合

土地の所有者が複数いる場合は、何人いても全員と現地で境界確認してもらうことが原則です。しかし、共有者が10人も20人もいる場合に、全員と現地で境界確認をすることは現実的には難しいものがあります。そこで、実務では代表の方に現地を確認して頂き、その他の方には代表の方から説明してもらうという方法をとることもあります。もちろん、境界確認書には全員の方から署名捺印を頂きます。全員から署名捺印を頂くのは、境界確認書が所有権界の確認書だからです。

ただし、筆界と所有権界が一致していると判断できる場合で、地積更正登記や分筆登記などの登記申請のための境界確認の場合には、代表の方とだけ境界確認書の取り交わしを行うこともあります。これは、筆界はお互いが合意して決めるという性質のものではなく、筆界が出来た時点で客観的に固定して動かないものとされているからです。筆界に関しては、管理行為(保存行為)として、隣地との境界確認を行うことになりますので、共有者の一名が確認すれば足りるわけです。

隣地の所有者が亡くなっている場合

この場合は、相続人の方と境界の確認を行います。遺産分割が済んでいない場合には、法定相続人全員となり、所有者が複数いる場合と同じ取り扱いとなります。

隣地の所有者が行方不明の場合

隣地の所有者が行方不明の場合には通常、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てをして、選任された不在者財産管理人と境界の確認をすることになります。境界確認書も選任された不在者財産管理人と取り交わしを行います。ただし、家庭裁判所で選任されるまでには通常2~3ヶ月程度かかります。案件によってはそれ以上の期間を要するものもあります。

東日本大震災で、津波などで行方不明になったような人の場合には、失踪宣告を家庭裁判所に申し立てをして、公示催告期間後に裁判所から失踪宣告の審判を受けるという方法もありますが、失踪宣告を受けると相続が開始されますので注意が必要です。失踪宣告には普通失踪(7年間行方不明)と特別失踪(危険が去った後1年間行方不明)があり、また認定死亡という制度もありますので、詳しくは弁護士にご相談下さい。

隣地の所有者が認知症・知的障害・精神障害の場合

隣地の所有者が認知症・知的障害・精神障害の場合には、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てをして、選任してもらいます。ちなみに、選任されるまでには通常2ヶ月程度かかります。

隣接の所有者が境界確認拒否の場合

境界の確認に協力して頂けない場合に、確認を強制することはできません。協力して頂けるようにお願いするしか方法がないのです。いくらお願いしても協力して頂けない場合には、筆界特定制度、筆界(境界)確定訴訟、所有権(境界)確認訴訟などの手段によるほか、境界を確定させる方法はありません。

以上、お話してきたように、境界を確認するといっても様々な問題があり、多くの時間を必要とするケースも出てきます。境界を確定しなければならない事情が発生してからでは間に合わないということもあります。土地の所有者さんが元気で、お隣と良好な関係があり、時間的に余裕がある時に、境界の確定をされることをお勧めします。

次回は境界確認書の印鑑についてお話します。

昭和38年生まれ。平成7年土地家屋調査士登録。測量を通してお客様に「安心」を提供することを目的に平成9年株式会社測量舎を設立。誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量。平成18年土地家屋調査士法人測量舎を設立。ADR認定土地家屋調査士、測量士。

高橋一雄土地家屋調査士事務所

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