東日本大震災の行方がまったく分からない時期でもあった、3月18日に平成23年1月1日付の地価公示価格が発表されました。
あの時期は電車がまともに来ない状態で通勤が「痛勤」とも言える最悪の頃でした。
専門家(一応これでも地価公示評価員)の私でさえ、公示価格の発表に頭が行かないほどで国民的関心度は過去に照らしても最低レベルではなかったでしょうか。
東京都の住宅地平均が前年度-1.6%、商業地平均が-2.8%、全用途平均-2%とリーマンショックからは立ち直る気配も感じられるほど比較的堅調な状況でした。これは首都圏に共通した不動産市場で、低価格路線を売り物にした、いわゆるパワービルダーと呼ばれる建て売り会社は絶好調の勢いでした。
しかし、この3.11です。有力な測量会社の話では、各社ともに土地取得は一斉にキャンセルしたようです。それは、資材不足が深刻で土地を仕入れても建物を完成させる時期が分からないというのが理由です。
建て売り屋さんは建物を建てて利益を得るのですから、いつ販売できるか分からない土地は仕入れを控えることになります。広大地など面積が大きく総額が張る土地は、相続などで納税するためにはプロである開発業者さん以外に買える人はいません。
その業者が買い控えると換金に困ることになります。……今は納税をどのように果たすのかが相続コンサルタントの腕の見せ所ということもあり、売れないとなると物納も選択肢の一つということになるでしょう。
つまり、地価は今後、弱含みになる可能性が強いと読むべきでしょう。せっかく盛り上がった不動産市場が一気に下がることも考えられます。これは阪神大震災の時もそうだったように神戸市の地価は全用途平均で6か月間で-15%(日本不動産研究所調べ)を記録しています。
そうすると、この先(7月上旬予定)に発表される相続税の路線価はどうなるかです。
路線価は公示価格を100とすると80程度になるように設定されます。また、都道府県地価調査(基準地価格)の時点が7月1日でこれから調査が行われます。その発表は9月中旬になります。当然1月1日からの地価下落率も明らかになります。
特にこれから起こるであろう相続案件では年後半の相場如何によっては、路線価の高止まり感が顕著になり、路線価では売れないといった土地が随所に現れることになりそうです。
※本記事は2011年5月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
不動産鑑定士。昭和28年北海道生まれ。神奈川大学法学部卒。株式会社東京アプレイザル代表取締役。士業との連携も活かし、数多くの不動産を鑑定評価。平成12年には相続アドバイザー協議会を設立し、相続の専門家教育にも従事している。著書に『事例に見る 相続時の土地評価と減価要因』など。
株式会社 東京アプレイザル
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