資産承継

境界紛争を解決するには?

境界紛争を解決するには?

万が一お隣と境界で「紛争」になってしまったら、誰に相談すれば良いのでしょうか? 分かっているようで、意外と分からない問題のようです。

この問いに対する法律上の正しい答えは、「弁護士」です。「紛争」の解決は弁護士の業務範囲なのです。

しかし、弁護士が問題となっている境界について、本当に分かっているかと言うと、若干疑問があります。法律上の境界については専門でしょうが、境界紛争は六法全書の上で起こっているわけではありません。現地で起こっているのです。現地を正しく理解しないで、法律論だけで解決しようとすると、お隣同士で裁判をすることになってしまいます。

裁判は強制的解決です。前回お話したようにもめているのは人です。裁判で判決が出たからといって、納得するとは限りません。お互いに納得しなければ、境界は確定しても問題の本当の解決にはなりません。お隣と話し合いもできないような状況になってしまってからでは、裁判以外に解決の方法が無いのかもしれませんが、そのような状況になる前に、境界の専門家である「土地家屋調査士」に相談することをお勧めします。

境界紛争の解決方法

さて、境界紛争の解決についてお話したいと思います。以前お話したように境界は大きく分けると2つに分けることができます。「筆界」と「所有権界」です。筆界と所有権界で、紛争解決の方法が違ってきます。「筆界」でもめているのか、「所有権界」でもめているのかについての判断は、「弁護士」または「土地家屋調査士」にご相談下さい。生兵法は大怪我のもとです。

「筆界」で境界紛争となった場合の解決方法には、「筆界特定制度」と「筆界(境界)確定訴訟」があります。

「所有権界」で境界紛争となってしまった場合には、「所有権(境界)確認訴訟」と「裁判外境界紛争解決制度(ADR)」がありますが、これ以外にも「民事調停」や「話し合い」といった解決方法もあります。

筆界特定制度

それではまず、「筆界特定制度」から見て行きましょう。

「筆界特定制度」とは、平成17年の不動産登記法の改正によって新しくできた制度です。法務局または地方法務局にいる筆界特定登記官が、土地の所有権登記名義人等の申請に基づいて、一筆の土地と他の土地との間の筆界について、現地の位置を特定する制度です。

特定するまでに申請から約10ヶ月程度を要します。費用については、申請人側が負担することになります。特徴としては、申請人または相手方が不服であったとしても、筆界が特定されるという点です。これは、「筆界」の性質(前々回の『境界とは?』)を読んで頂ければご理解頂けると思います。

筆界特定登記官によって特定された「筆界」について、不服がある場合には、「筆界(境界)確定訴訟」を提訴することができます。気を付けなければならないのは、この制度は「所有権界」には全く関与しないということです。このことを良く分かった上で、この制度を利用することが重要です。

筆界(境界)確定訴訟

次に「筆界(境界)確定訴訟」について、お話しましょう。

「筆界(境界)確定訴訟」とは、読んで字の如く裁判です。提訴できる裁判所は、相手となる被告の住所地または不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(係争地の固定資産税評価額の1/2が140万円以下であれば簡易裁判所)。

判決までには約2年程度かかるようです。判決に不服がある場合には、高等裁判所に控訴することもできますが、一審より不利な判決が出る場合もあります。「筆界特定制度」との関係では、「筆界(境界)確定訴訟」の判決が優先されます。また判決が出されると、「筆界特定制度」は受け付けられません。

所有権(境界)確認訴訟

「所有権(境界)確認訴訟」これも裁判です。「筆界(境界)確定訴訟」との違いは、「筆界(境界)確定訴訟」は、地番と地番の境についての争いであり、「所有権(境界)確認訴訟」は、原告の所有権の及ぶ範囲についての争いだという点です。

また、「筆界(境界)確定訴訟」は、和解できないのに対して、「所有権(境界)確認訴訟」は、和解できる点が大きな違いと言えます。判決までの期間は、長いものだと約10年掛かる事案もあるようです。

裁判外境界紛争解決制度(ADR)

最後に、「裁判外境界紛争解決制度(ADR)」についてお話します。この制度は、全国にある各土地家屋調査士会が、弁護士会の協力を得て、境界についての相談から紛争解決のための調停(または仲裁)を行う制度です。

話し合いによる解決ということから考えると、この制度も所有権界の解決制度と言えます。以下に、東京土地家屋調査士会(境界紛争解決センター)WEBサイトへのリンクを載せておきますので参考にして下さい。

東京土地家屋調査士会

以上のように、境界紛争を解決する制度は、用意はされているのですが、解決するまでには多くの時間と費用が掛かります。ましてや、裁判となるとお隣同士で原告、被告として争わなくてはなりません。今後も同じ土地で生活をしなければならないような状況での裁判は、できるだけ避けた方が良いのではないでしょうか?

境界紛争とならないための秘訣は、お隣と仲良くすることです。普段のお付き合いが最も大切です。挨拶をすること、話をすること、この何でも無いようなことが大切です。人は相手が何を考えているかが分からなくなると、不安を感じます。不安は怒りに変わります。常日頃からのコミュニケーションが、境界紛争を未然に防ぐことになるのです。

昭和38年生まれ。平成7年土地家屋調査士登録。測量を通してお客様に「安心」を提供することを目的に平成9年株式会社測量舎を設立。誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量。平成18年土地家屋調査士法人測量舎を設立。ADR認定土地家屋調査士、測量士。

高橋一雄土地家屋調査士事務所

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