資産承継

事業承継の方針策定基準と種類株式の選択

事業承継の方針策定基準と種類株式の選択

前回のコラムで、事業承継の手段として、改正会社法において新設された種類株式を導入する等の株式の制度設計と相続法上の手法を組み合わせ、自社に最も相応しい事業承継対策を確立することが肝要であるとお話しさせて頂きました。

ところで、事業承継の解説書の多くも同様な視点から議論されていますが、あまりにも紙幅が多く辟易とされた方も多いことでしょう。そこで、この戦略をより分かりやすく、かつ実践的に勉強して行くことにしましょう。

1.基本戦略の確認

事業承継に事前戦略が必要なのは、前回お話ししたように、民法が、同じ「子」同士の相続割合を均等としていること、遺留分制度があるため、たとえオーナーが特定の承継者を決めて、その者に事業を承継するとしても遺留分権利者から異議が出されること(※1)、異議対象財産の価額に相応する金銭の弁償をしなければならないこと(※2)等、相続法上の制度によって事業自体の分散が不可避となってしまうからです。

そこで、現オーナーにおいて、以下のような事業承継に関する基本戦略を確認する必要があります。

(1)オーナーの生前に相続が発生しても遺言を利用して経営権が分散しないような定款の変更を行うこと
(2)遺留分に配慮しながら経営権が分散しないような遺言書を作成すること
(3)当該遺言に即した執行を行うこと

1.基本戦略の確認

事業承継に事前戦略が必要なのは、前回お話ししたように、民法が、同じ「子」同士の相続割合を均等としていること、遺留分制度があるため、たとえオーナーが特定の承継者を決めて、その者に事業を承継するとしても遺留分権利者から異議が出されること(※1)、異議対象財産の価額に相応する金銭の弁償をしなければならないこと(※2)等、相続法上の制度によって事業自体の分散が不可避となってしまうからです。

そこで、現オーナーにおいて、以下のような事業承継に関する基本戦略を確認する必要があります。

(1)オーナーの生前に相続が発生しても遺言を利用して経営権が分散しないような定款の変更を行うこと
(2)遺留分に配慮しながら経営権が分散しないような遺言書を作成すること
(3)当該遺言に即した執行を行うこと

※1:これを遺留分減殺請求権といい、相続等があったことを知ったときから1年を超えると時効によって消滅します(民法1042条)。遺留分の基礎たる財産を算定するには、債務は控除されますが、相続1年前の(遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた場合はそれ以前を含む)贈与も含まれます(民法1030条)。また、遺留分の生前放棄は、家庭裁判所の許可事項となっており、相当な理由があり、かつ代替措置が十分とられる等その要件は非常に厳しいと解されます(民法1043条)。

※2:「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が民法に関する遺留分の規定の特例を定めていますが、この点は別稿に譲ります。

2.各会社における実行方針の決定

とは言っても、置かれている状況は千差万別です。貴社にとっての実行方針を決める際に重要な判断の要素・基準としては、以下のような観点が挙げられます。(※3)

(1)オーナーの所有持株数が全体の3分の2以上か否か
(2)オーナーの相続対象財産の中に会社の業務に供している資産が存するか否か、その場合の割合はどの程度か(※4)
(3)相続人の数とその性質
(4)非オーナーグループの株主の割合とその内容
(5)オーナーが現に想定している承継者がいるか否か、その場合の事業承継者の内容

また、このような基準をもとに、以下のような項目について決定します。

(1)定款変更が現時点で可能かどうか(※5)
(2)種類株式のうちどの種類株式を発行するのか、発行株式数をどうするか
(3)発行方法をどうするか
そして、これらの中から選択した会社法上の制度設計に基づき遺言の内容を確定するという方針をなるべく早期に意識することが大切です。

……もちろん、経営者の方の多くは、経営の柔軟性を留保して、後継者の選択の幅を持たせておきたいという方も少なくないと思います。しかし、貴社の所与の条件に鑑みれば、想定されるケースは二、三に収斂されることが多いのではないでしょうか? その場合には、相反する案も含め、数案のシミュレーションを行うことも、事業承継の検討にあたって極めて意義のあることだと思います。

※3:これらの諸要素を検討した結果、オーナーの親族が経営を承継・継続するより、オーナーが相当な退職金を得た上で株式を第三者に譲渡し、会社を他の会社と合併させることによって事業を親族以外の第三者に承継させる方が良い場合も考えられます。このような場合の退職金の合意、株式譲渡や合併等に関する交渉、手続等については別稿に譲ります。

※4:例えば事業対象財産にオーナー個人所有の不動産等が遺留分以上に存する場合は、土地に賃借権設定をしておく等、会社法以外の判断が必要となります。不動産及びその運用に関する問題として、これも別稿に譲ります。

※5:そもそも取得株式数が2分の1未満の株主はオーナーとは言えないでしょうし、その指名する承継者が他の株主から見て相当な承継者といえるかは疑問です。むしろそのようなケースは事業承継の問題というより事業の買収に関するM&A一般の問題となります。……要するに取得株式数が過半数はあるが3分の2に満たない場合か否かですが、前回お話ししたように他株主から任意譲渡を受けるか、名義株主から実質名義を回復する交渉等を通じ、3分の2まで持ち株比率を高める努力をされるべきであると考えます。そのために事業承継の準備は早めに着手すべきであり、早い時点に着手されれば、弾力的は執行権強化を理由に、オーナーを引受人とする第三者割当増資も他の株主の疑問なく行うことも比較的容易ではないかと思われます。

3.貴社に相応しい種類株式の選択

(1)議決権制限株式

株主総会における全部または一部の事項について議決権を有しない種類株式であり、特定の事項についてのみ議決権を有しないとする場合と、株主総会決議事項のすべてについて議決権を有しないとする場合があります(会社法108条1項3号)。

この株式を予め発行してオーナーが取得しておき、オーナーの株式全部を承継人に相続させると他の相続人の遺留分を侵害する場合には、遺言によって承継人には普通株式を相続させ、当該相続人に対し完全無議決権株式を相続させることによって、貴社の議決権(=実質的な経営権)が承継人のみに留保されることになります(※6)。

※6:この種類株式の定款記載事項の例は以下のとおりです。
『第○条 本会社の発行株式総数は○○○○株とし、上記のうち普通株式の発行可能株式総数は○○○○株、議決権制限株式の発行済株式総数は○○○○株とする。
2 前項に定める議決権制限株主は、株主総会において議決権を有しない。』

(2)拒否権付種類株式

株主総会、取締役会、清算人会の特定の決議事項について、株主総会決議等のほかに、当該種類株式を保有する株主の種類株主総会決議を必要とする内容の株式で、定款記載の特定の事項に関し、その所有する株主に拒否権を与えることができるため、遺言によって承継人に拒否権付制限株式を相続させれば各決議について拒否権を行使できるため、実質的な経営権を維持することが可能となります(※7)。

ただし、拒否権付制限株式は、仮に1株であっても組織上の機関決定を覆す強力な武器となるため、議決権制限株式より慎重な配慮が必要であると考えます。

※7:この種類株式の定款記載事項の例は以下のとおりです。
『第○条 本会社の発行株式総数は○○○○株とし、上記のうち普通株式の発行可能株式総数は○○○○株、拒否権付種類株式の発行済株式総数は○○○○株とする。
2 本会社が次に掲げる事項を実施するには、取締役会決議及び株主総会決議のほか拒否権付種類株式を有する株主のみにより構成された拒否権付種類株主総会の決議を要する。
[1] 代表取締役、取締役及び監査役の選任及び解任』

(3)全部取得条項付種類株式

全部取得条項付種類株式とは、会社が当該種類株式の全部を取得することができる株式です。例えば、特別決議で、全部取得条項付種類株式と議決権制限株式の発行を決議した上で、発行済普通株式のすべてを全部取得条項付種類株式に変更すると共に、オーナーまたは承継者に普通株式を割り当てると共に全部取得条項に基づき議決権制限株式を対価として全部取得条項付種類株式を会社が取得する方法により経営権を確保することができます(※8)。

ただし、全部取得条項付種類株式の発行及びこれによる株式の取得に反対する株主には株式買取請求権が認められるため、オーナーとしてはその買取資金の用意が必要です。

※8:この種類株式の定款記載事項の例は以下のとおりです。
『第○条 本会社の発行株式総数は○○○○株とし、上記のうち普通株式の発行可能株式総数は○○○○株、全部取得条項付種類株式の発行済株式総数は○○○○株とする。
2 本会社は、株主総会決議をもって会社法第171条1項に規定する事項を定めて全部取得条項付種類株式の全部を取得するものとする。この場合、本会社が、全部取得条項付種類株式を取得する対価は本会社の上記決議時の財務状況を踏まえて当該株主総会において定めるものとする。』

これらの種類株式の中から上記2.の基準等を参考に、貴社に相応しい種類株式を選択することになります。なお、これらの種類株式の導入は登記事項ですので注意が必要です(会社法915条1項)。

次回は、具体的な種類株式の選択とそれに伴う遺言の作成に関し検討してみましょう。

弁護士。昭和31年生まれ。早稲田大学法学部卒。昭和55年司法試験合格後、司法研修所、海谷・江口・池田法律事務所を経て、平成元年に木島法律事務所を設立。組織変更を経て、平成22年12月より木島綜合法律事務所。一般民事事件とともに、都市再開発法・借地借家法・不動産売買等の不動産関係法務や会社法・労働法等の企業法務等を多く扱っている。

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