資産承継

相続税・贈与税で、申告が必要な減額特例

相続税または贈与税の申告は、財産を取得し、税額が生じるときに必要となります。この財産の価額及び税額を計算する上で、面倒でも税務署に申告という手続きを行わないと適用が受けられない特例があります。今回はその特例のうち代表的なものをご紹介したいと思います。

1.相続税において申告により適用が受けられる特例

(1)小規模宅地等の特例

相続または遺贈により取得した財産のうちに被相続人等の居住用や事業用に使われていた宅地等がある場合において、その宅地等の金額のうち一定割合を減額する特例です。この規定は今年の税制改正で対象範囲の見直しが行われましたが、今後も減額割合の見直しなど増税の方向に向かう可能性が高いものと思われます。

(2)配偶者に対する相続税額の軽減

配偶者の取得した財産で1億6,000万円と法定相続分のうち、いずれか高い金額に相当する部分までは配偶者の相続税がかからない特例です。この規定は後述の贈与税の配偶者控除の規定と異なり、婚姻期間の長短に関係がありません。財産目当ての後妻さんと先妻の子との間の確執の原因ともなり得るものです。

(3)国等に対して相続財産を贈与した場合等の非課税

取得した財産をその取得後相続税の申告の提出期限までに国、地方公共団体等に贈与した場合には、その贈与をした財産を相続税の財産の金額に算入しないとする特例です。贈与を促進する意味で非課税であるのは当然のこと。奇特な方はどうぞこの特例をご利用ください。

(4)申告期限前に災害による被害を受けた場合の特例

相続税の申告の提出期限前に災害による被害を受け、その金額が取得した財産の10分の1以上である場合には、その財産の金額からその被害を受けた部分の金額を控除した金額により計算することとする特例です。10分の1の基準は相続財産の全体ではなく、相続人ごとに判定です。つまり、遺産分割が行われていないときは、この規定の適用が受けられないことに! 災害の被害を受けた上に相続争いまでするなということでしょうか。

(5)相続時精算課税に係る贈与税額の還付

相続時精算課税を選択して贈与により取得した財産は、実際の相続時にもう一度相続税の財産の金額に加算して税額を計算します。この場合、支払った贈与税があるときは、その金額を納付すべき相続税から控除します。相続税が贈与税より少ないときは、相続税はゼロとなり、かつ控除しきれなかった金額は還付を受けることができるという特例です。相続時精算課税は一度選択をした場合撤回することができません。2,500万円までの非課税枠はあるものの、理屈の上ではこの制度の選択以後は10,000円の小遣いにも20%、2,000円の贈与税がかかります。

2.贈与税において申告により適用が受けられる特例

(1)贈与税の配偶者控除

婚姻期間が20年以上である配偶者から居住用不動産又はそれを取得するための金銭を取得した場合において、2,000万円までを贈与税の課税財産の金額に算入しないとする特例です。この規定は同一の配偶者に一度しか適用できないものです。何度もお使いになりたい方には20年ごとの再婚がお勧めです。

(2)相続時精算課税に係る贈与税の特別控除

20歳以上の者が一定の者から贈与により財産を取得した場合には相続時精算課税を選択することができます。相続時精算課税を選択すると1.(5)のとおり2,500万円の特別控除を受けることができる特例です。2,500万円という金額は相続税の基礎控除と4人家族をモデルとして勘案して設定され、将来相続税の心配がない方々に利用してもらうことを想定しているものと思われます。

(3)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

父母、祖父母などから取得した住宅取得等資金のうち、一定額まで贈与税の課税価額に算入しないとする特例です。この規定は昨年の補正予算で創設され、今年の税制改正で拡充されたことからも景気対策の側面が強いものです。経済の状況や国の財政状況により今後どのような措置が行われるか不確定な部分もあります。『いつまでもあると思うな親と金』、活用はお早めに。

3.特例の適用には申告による意思表示が必要です

相続税も贈与税も、納税者自らがその金額を計算して申告、納税する方式です。これは、税額は納税者自身が最もよく知り得る立場にあるという前提の下に成立しています。しかし、金額の計算にあたっては当然のことながら税法の規定に従って計算しなければなりません。特例の適用を受ければ相続税や贈与税がゼロになるのでなぜ申告するのかと思われるかもしれません。

しかし、考えてみてください。税務署は疑うのが仕事です。ましてや納税者が勝手に特例の適用を自分にあてはめて計算した結果の税金がゼロになったものを信用するはずがありません。

税務署に自分が特例の適用をしっかりと適正に受けていることを示すために税額がゼロになっても申告する必要があると考えると理解しやすいのではないでしょうか。

※本記事は2010年5月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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