資産承継

やっかいな「底地の鑑定評価」と試算例

底地の評価は、旧借地法によって守られる借地人が存在するため、借地権の契約次第で大きく変わります。つまり、底地評価は借地権を抜きにしては語れず、適正な評価額を求めるのは非常に困難なばかりか、市場流通性もほとんどないと言っていいでしょう。事例を含めて概要を説明します。

底地の鑑定評価

不動産鑑定評価基準では底地や底地の価格を次のように定義しています。

(不動産鑑定評価基準 5頁)

底地とは、宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権をいう。

(不動産鑑定評価基準 41頁)

底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において(1)賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。

賃貸人に帰属する経済的利益とは、当該宅地の(2)実際支払い賃料から(3)諸経費等を控除した部分の(4)賃貸借等の期間に対応する経済的利益及び(5)その期間の満了によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。

これでは一般の方は何を言っているのかすぐにはピンと来ません。そこで、これを括弧の番号順に簡単に解説すると次のようになります。

(1)賃貸人に帰属する経済的利益: 地主が受け取る全ての収入
(2)実際支払い賃料: 毎月の地代
(3)諸経費等: 固定資産税・都市計画税等の税金や管理費用
(4)賃貸借等の期間に対応する経済的利益: 賃貸借期間中に受け取る更新料・建替え承諾料等を加味した収入
(5)その期間の満了によって復帰する経済的利益の現在価値: 将来、賃貸借が終了したことにより更地になった場合※、その価格の現在価値
※ただし、更地になって地主の元に復帰する可能性は極めて低い

鑑定実務では、底地の評価は借地人が存在することにより適正な評価額を求めるのに苦労します。つまり、底地評価は借地権を抜きにしては語れません。

地主さんから見ると借地人に土地を貸しているので「貸宅地」という言い方になります。戦前から、あるいは戦後間もなくからずっと貸借関係が続いているため、様々な問題点があります。

その問題の多くは旧借地法により、借地人の法的地位の保護・安定化が図られているからだと言っても過言ではありません。その権利を巡って色々な形で争われている事実があります。

法的地位の保護・安定化の例

1.最低存続期間が法定されている

  • 一般木造住宅の場合、契約で定めるときは20年以上
  • 鉄筋コンクリート造の場合、契約で定めるときは30年以上

2.契約期間が満了の場合

  • 地主に更新拒絶のための正当事由がない限り契約は更新される

3.借地権の譲渡

  • 地主の承諾を得ることができなくても、借地人は「承諾に代わる許可の裁判」によりこれを譲渡することができる

先にも述べましたが、底地は借地権の契約関係がどのようになっているかで、全くと言っていいほど評価が変わってきます。一律に更地価格に相続税路線価割合(1-借地権割合)を乗じて幾らなどという話ではありません。

底地の鑑定実例

以下の事例では、借地人が8人おり、さらにその借地人の1人がアパートを建てており、その借家人が何十人もいるという大変な状態でした。父親が相続を迎えると多額の相続税が予想されましたので、先に何らかの手を打っておきたいとのことです。

所在地 東京都23区内
土地面積 990m2
用途地域 準工業地域(建ぺい率:60%、容積率:300%)
価格時点 平成19年
類型 底地

依頼人であるA氏は55歳、お父様は85歳、かなりの資産家です。お父様は体も弱ってきており、相続が心配とのこと。特に貸宅地をたくさん保有しており、その評価が気になるとのことでした。

本件は貸宅地の典型例です。土地面積990m2の上に借地権者が建てたアパートが1棟、貸家が7棟あり、これを更地化するには底地屋と呼ばれるプロでも至難の技です。仮に借地権者が底地を買っても、借家人を出さない限り、完全な自由にはなりません。

当時、相続が起きると、路線価方式では約1億5千万円になってしまいます。A氏曰く、『とてもこんな値段では売れません』。相続が発生する前に、同族法人に売却したいとの願いです。そこで鑑定評価により適正価格を出し、売却することにしたのです。

さて、底地といえども、第三者間売買が正常価格となります。しかし底地の流通市場はほとんど無いのが実情です。また収益を目的に購入する一般投資家もほとんど、いや全くいないと言ってもいいかもしれません。

ただ、底地屋さんがいます。彼らは、更地の10%~15%程度で仕入れて、借地人と交渉します。今回は、この底地屋さんから買った取引事例を正常な取引と考え、底地割合を10%と査定しました。

【評価】

1.実際支払い資料に基づく純収益を還元する収益還元法

総収益
・年間支払い賃料
2,100,000円
2,100,000円
必要諸経費等
・固定資産税
・都市計画税
・管理費
1,003,000円
660,000円
280,000円
63,000円
純収益(総収益-必要諸経費等) 1,097,000円
収益価格 純収益÷0.03※≒36,600,000円
※底地の還元利回りを3%とした

2.更地価格に底地割合を乗ずる方法

a)底地の取引事例による査定:9.4%

底地の取引事例の取引価格 61,800円/m2 ……A
取引事例地の基準価格 626,000円/m2
取引事例地の更地価格 1,097,000円
取引事例地の底地割合(A÷B) 626,000円/m2×1.05※=657,000円/m2……B
※個別的要因の比較:三方路+5

b)路線価による査定:30%

c)底地割合の査定:10%

aによる割合を標準とし、bの割合を考慮して、底地割合を10%と査定。

したがって、580,000,000円※×0.1(底地割合)=58,000,000円
※依頼された土地の更地価格

3.鑑定評価額の決定

1.実際支払い賃料による収益価格 36,600,000円
2.底地割合による価格 58,000,000円

1.は実際支払い賃料を基に試算したものであり、理論的な価格である。一方、2.は実際の取引事例を基に試算したものであり、市場価格を反映した実証的な価格である。

2.の実証性を重視して、鑑定評価額を58,000,000円と決定した。

……これには後日談があります。私の鑑定評価額では5,800万円でした。この価格で長男の会社にこの土地を売却しました。1年後お父さんが亡くなり相続が発生しました。そこで残念ながら兄弟間で相続争いが起きて会社で所有していることもできなくなったそうです。その後この底地を一括で買う不動産業者が現れて売ったそうです。なんと1,500万円でした。このような問題物件は保有していても損のない価格でしか買ってくれません。今回は地代の手取り収入が109万円ですから、不動産業者は次のように考えます。

109万円÷1,500万円=7.3%(利回り)

結果的には路線価評価の10%でしか売れなかったということです。

※本記事は2010年2月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

不動産鑑定士。昭和28年北海道生まれ。神奈川大学法学部卒。株式会社東京アプレイザル代表取締役。士業との連携も活かし、数多くの不動産を鑑定評価。平成12年には相続アドバイザー協議会を設立し、相続の専門家教育にも従事している。著書に『事例に見る 相続時の土地評価と減価要因』など。

株式会社 東京アプレイザル

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