資産承継

争続を未然に防いだ、不動産鑑定評価のノウハウ

今回ご紹介する事例は、都内目黒区に相続した土地をめぐり、その分割方法で揉めていた3人兄弟のお話です。一人はそこに住み続けたく、他の二人は自分の取り分を売却して換金したいがために折り合いがつかなかったのですが、鑑定評価の知見を駆使して土地の分割方法と評価額を提示することで合意が得られ、“争続”化することを防ぐことができました。

不動産鑑定評価による相続争い防止法

不動産鑑定士の主な業務に、役所が道路用地や河川(ダム)用地等を買収するときに、地主からいくらで買うのが妥当なのかを評価するというものがあります。

したがって、こういう仕事の場合には、お客様は国とか公共団体が多くなるのですが、私に限ってはこの手の仕事はあまり多くなく、税理士や弁護士、司法書士等の士業とのネットワークを構築して、(1)相続時における適正な時価評価や広大地判定、(2)親族間、同族会社間の売買・交換等の税務に関わる仕事を主に展開しています。

そのような縁で、今回のコラムも相続をテーマにしています。よろしくお願いします。

さて、ある税理士さんより、平成20年12月に起きた相続の件で土地の分け方で揉めているお客様がいるので相談したいという旨の連絡がありました。

相続人は60代の男性3人兄弟です。お父様は10年前にすでに亡くなっており、今回は残されたお母様が亡くなったとのこと。目黒区内に自宅土地が約500m2と金融資産が1,000万円ほどです。小規模宅地の評価減を使うと相続税は3人で数百万円ですので、それほどの負担ではありません。

問題はこの土地上には、お母様の母屋自宅と三男の自宅(土地面積120m2)が別棟であることです。つまり、三男がこの土地に自宅を構えているのですが他の2人は他に居宅を持っているのです。それと、3男の自宅はこの土地の入り口部分に位置しておりお母様の自宅は裏面になっていることです。

私が相談に乗った段階では長男と次男はこの土地を全部売払って、3等分して分配してはどうかという考え方でした。当然、三男は反対です。すでに年金生活に入っており、いまさらこの家を出て行けと言われても困るということです。何としてでも、ここに残りたいとの思いです。その気持ちはよく分かります。

結局は、この不動産をどのように分けるか、そして、その価格は平等なのかを知らせてあげれば、お互い納得できるのではないかと思いました。要は、長男・次男は自分の取り分を換金したいというのが本音でした。

税理士さんには土地の分割の方法と評価額をあらかじめ計算したものを提示し、合意を得られる可能性を伝え、3人の方との協議に立ち会うことになりました。

本件は土地の鑑定評価というよりも、3分割した場合の価格の提示により合意を形成するためのコンサルティングといった方が良いかもしれません。それが下図のようになります。

当初、三男は道路に対する間口をあと1mずつ、つまり2m拡充したいという気持ちもあったようですが、それは虫が良すぎるということで却下されました。結果的には長男と次男は私の鑑定評価に納得してくれて、B地とC地を相続しました。その後、鑑定評価額よりもやや高い価格で売却して換金したとのことです。

※本記事は2009年12月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

不動産鑑定士。昭和28年北海道生まれ。神奈川大学法学部卒。株式会社東京アプレイザル代表取締役。士業との連携も活かし、数多くの不動産を鑑定評価。平成12年には相続アドバイザー協議会を設立し、相続の専門家教育にも従事している。著書に『事例に見る 相続時の土地評価と減価要因』など。

株式会社 東京アプレイザル

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