1.所得税法における譲渡所得とは
単に資産を引き渡して対価を得るという一般的な売買だけでなく、対価の授受がなくても譲渡所得として課税されることがあります。これは、所得税法が資産保有期間中の価値増加分を譲渡所得としているためです。
以下、代表的なケースについて具体例を挙げて説明します。
2.譲渡所得とされるケース
(1)借地権等の設定
建物または構築物の所有を目的とする借地権等を設定するケースです。その対価として支払いを受ける金額が、土地の時価の2分の1を超える場合には、その対価の額で借地権等の譲渡があったものとして譲渡所得の計算をします。
ちなみに、対価の額が土地の時価の2分の1以下である場合には、不動産所得の収入金額となります。
(2)代物弁済
代物弁済とは、例えば、Aから3,000万円の借金をしているBが、現金による返済に代えてAに時価3,000万円の土地を引き渡し、債務を消滅させる契約を言います。
この場合、Bは土地を3,000万円で譲渡したものとして譲渡所得の計算をします。
ただし、その代物弁済が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合において一定の要件に該当するときは、譲渡所得は非課税とされます。
(3)離婚による財産分与
例えば、離婚による財産分与として、夫が自己名義のマンションを妻に引き渡した場合、所得税法上は次のように取り扱われます。
夫は、財産分与義務の消滅を対価とする資産の譲渡をしたとみなされます。したがって、分与時の時価でマンションを譲渡したものとして譲渡所得の計算をしなくてはなりません。 ただ、この場合、居住用財産の譲渡をした場合の特例が使える可能性がありますが、ここでは詳述いたしません。
一方妻は、財産分与請求権に基づいてマンションを取得したに過ぎず、贈与により取得したものではないと考えるため、贈与税は課税されません。
しかし、その取得した財産の価額が、婚姻中の一切の事情を考慮して過当であると認められる場合には、その過当である部分の価額については贈与税が課税されます。
(4)法人に対する現物出資
現物出資とは、法人の設立や増資等に際して金銭以外の財産により出資して、その法人の株式等を取得することを言います。
例えば、法人の設立時に個人が時価5,000万円の土地を出資し、5,000万円相当の株式を取得したとします。この場合、出資した個人は取得した株式の時価である5,000万円で土地を譲渡したものとして、譲渡所得の計算をします。
(5)限定承認による相続及び包括遺贈
相続人は、相続する財産を限度として、被相続人の債務を弁済すべきこととして相続の受諾をすることができます。これを限定承認と言います。なお、相続財産を特定されず、一定の割合を指定されて遺贈を受けた人(包括受遺者と言います)も相続人と同一の権利義務を有するため、限定承認をすることができます。
被相続人が、財産より多くの債務を抱えている場合に限定承認を選択されるかと思いますが、税務上は相続税ゼロだけでは終わりません。限定承認により不動産等を相続した場合、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとされるのです。
(6)法人への贈与及び遺贈
個人が、法人に不動産等を寄付した場合には、寄付した時のその不動産等の時価により譲渡をしたものとして譲渡所得の計算をします。
また、被相続人が法人に不動産等を遺贈した場合には、相続開始時の時価により譲渡をしたものとして譲渡所得の計算をします。この場合、被相続人の譲渡所得の申告は相続人等が行うことになります。
以上ご紹介の通り、何気なく行った行為に思わぬ所得税がかかってしまうことがありますので、十分ご注意ください。
※本記事は2012年11月に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。
税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。
税理士法人ATO財産相談室
阿藤芳明 コラム一覧