一人ひとり心に灯りをともしましょう
「われらに要るものは銀河を包む透明な意志、大きな力と熱である」
―宮沢賢治『農民芸術概論要項』より―
今、私たちにとって本当に必要なものは何でしょうか?
強い心、希望、未来へのまなざし。
一人ひとり、それぞれの方法で心に灯りをともしましょう。
この度の大震災で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
日本は地震、台風などの自然災害から逃れられない環境にあります。 だからこそ、心配や不安を膨らませるより、少しずつでも災害に備えておくことが望まれます。
たとえば、シニアにとって欠かすことのできないお薬や杖、入れ歯、眼鏡は、すぐに持ち出せるようにしておきましょう。また避難場所へのルートや手段を日頃から確認しておくと安心です。
私は16年前の阪神・淡路大震災のとき、単身、看護師として、災害医療ボランティアに参加し、被災地に入りました。
そこで感じたことは、身体のケアだけでなく、心のケアの重要性でした。被災者の心理は、災害直後の茫然自失期から、互いに強い連帯感で結ばれるハネムーン期、やがてやり場のない怒りを抱えて喧嘩やトラブルなどが生じる幻滅期に移行しますが、その通りのことが起こっていました。
災害直後の精神的な動揺は、ひどいショックを受けたときに誰にでも起こりうる反応です。感情の揺り返し(月日が経ってからの落ち込み)を起こす人、トラウマを抱え、神経が過敏となり感情の波を抑えきれない人など様々でした。
人によっては時が経ってもその体験が過去のものとならず、不調が長引くことがあります。1か月以上経っても気持ちの動揺や動悸、冷汗が出る、一部の記憶を思い出せない、自分が自分でないような感覚を抱く。こんなときはPTSD(※1)の可能性が疑われ、心のケアが必要となります。
怒りを抱えている人に対しては、非難や否定をせず、感情を受けとめます。深い悲しみを抱える人に対しては、そばに寄り添ってゆっくりよく話を聴きましょう。また、肌のぬくもりは恐怖や悲しみを和らげる効果があり、マッサージや足浴などは有効なコミュニケーションになります。
時間が経過しても緊張がとれない、表情がない、飲酒や喫煙が目立つ、こんな人に気づいたら、心の専門機関(※2)につなぎましょう。こうしたケアを根気よく行えば、被災した方々の心のキズは癒され、皆さんに再建期が訪れます。
未曾有の出来事に対し私たちは自分のペースを乱して無理をしたり、他人と比べて何もできないと自分を責めがちですが、それは自然な反応です。私は今「真に必要なものは何か」を問われているような気がしてなりません。イーハトーブを愛した宮沢賢治の声が、耳に響いています。
※1:PTSD/心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder;PTSD)。
突然の衝撃的出来事を経験することによって生じる精神障害
※2:心の相談(日本臨床心理士会 ほか)
ケアマネジャー・看護師・産業カウンセラー。三井不動産(株)ケアデザインプラザで、介護を含めたシニアライフのコンサルティングを行っている。やさしく丁寧なコンサルティングに定評がある一方、企業の介護関連のアドバイザーとしても活躍し、講演・執筆も多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信している。ウェブサイト「gooヘルスケア」で介護コラムを連載中。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。
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