資産経営に差がつく、骨太“法務”塾

借家人との契約解除は、共有者全員の同意が必要か?

記事作成日:2022年10月11日
記事公開日:2023年4月21日
記事改訂日:2023年4月21日

〈今回のテーマ〉共同所有するアパートの管理方法

父名義のアパートを父と長女である私の2人で管理してきましたが、父が2ヵ月前に亡くなりました。母は他界しているため、相続人は兄と私と妹の3人で、遺言書は作成されていませんでした。相続したアパートでは借家人1名が賃料を滞納しており、滞納額は今月末で賃料の3ヵ月分になります。滞納賃料を支払うよう督促し、督促期限内に入金がなければ契約を解除したいのですが、商社勤務の兄は海外におり、妹はアパート経営には関心がありません。私の名前で督促し、入金がなければ契約を解除する旨を通知したいのですが問題ないでしょうか。

遺言書がない場合、アパートの相続はどうなるか

借家人との賃貸借契約の解除について説明する前に、まずは前提となるアパートを相続する際の法律を見てみましょう。お父様がお亡くなりになり、お父様の所有名義のアパートがある場合、そのアパートを誰かに相続させる、あるいは誰かに遺贈する旨が記載された遺言書が作成されていれば遺言内容を執行しますが、そうでない場合は民法の規定に従うことになります。

ご相談のケースは相続人が複数いますので、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条)との規定に従うことになります。「共有」とは複数の人間が特定の財産を共同所有することを意味します。ですから、アパートはお兄様と相談者ご本人、妹様の3人が共同で所有していることになります。この場合、3人の相続人の権利割合は均等ですので、各自3分の1ずつの権利(これを「共有持分」といいます)を持っていることになります。

賃料を滞納している入居者との契約を解除するには

次に、アパートの賃料を滞納している入居者(賃借人)との賃貸借契約の解除についてです。入居者が賃料を滞納した場合、1ヵ月分の滞納では原則として契約を解除することはできません。

契約解除が可能と言われているのは、信頼関係が破壊される程度の契約違反(実務上はおおむね3ヵ月以上の滞納がなされたとき)とされています。その場合は、相当期間(おおむね1週間程度)を定めて滞納賃料を支払うよう催告をし、期限内に滞納賃料を支払わなかったときに初めて契約解除ができることになります(民法第541条)。

ただし、当事者の一方が複数人いる場合、契約の解除はその全員から、または全員に対してのみできるとされています(民法第544条)。これを「解除権の不可分性」といいます。

「管理に関する事項」は過半数の同意で決められる

前述の「解除権の不可分性」によると、ご相談のケースの場合はお兄様と相談者ご本人、妹様の全員の合意がなければ契約の解除ができないように思えます。

しかし、このケースではアパートは兄弟姉妹3人の共有となっており、共有物については別のルールが存在します。民法では「共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定めており(民法第252条)、賃貸借契約の解除は「管理に関する事項」に該当します。つまり、ご相談のケースは3人の共有者の持分が3分の1ずつですから、2人以上の同意があれば賃貸借契約の解除を決めることができるということです。

したがって、ご相談者の場合は、お兄様か、妹様のいずれかの同意を得れば、賃貸借契約を解除する手続きを取ることが可能となります。また、共有物の管理とは「財産の性質を変えない範囲内の利用または改良行為」を指し、今回の賃貸契約解除のケース以外にも、賃料の改定や賃借権の譲渡承諾、契約解除後の明渡請求なども管理行為として持分の過半数で行うことが可能となっています。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

海谷・江口・池田法律事務所

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