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「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」へ ~何が変わったかをしっかり理解し、万全の備えを!~

記事作成日:2021年9月10日
記事公開日:2023年4月14日
記事改訂日:2023年4月14日

〈今回のテーマ〉相続法の改正

アパートの土地建物を複数所有していた父が2019年に亡くなり、遺言書にはアパートを建築している土地建物を含め遺産はすべて長男の私に相続させると記載されていました。相続人は長男である私と次男、長女の3人です。遺言に従うと次男と長女は遺産の取得はゼロとなるため、2人は「遺留分を侵害している遺言なので訴える」と言っています。旧民法では遺留分割合で共有持分を与えて解決することができましたが、改正民法でも同様ですか。

旧民法(相続法)による「遺留分減殺請求権」とは?

2019年7月1日から改正民法(相続法)が施行されています。旧民法も改正民法も、生前贈与や遺言等により特定の相続人に遺産の大部分が移転する場合には、他の相続人に「遺留分」を認めています。遺留分は生前贈与や遺言等でも奪うことのできない相続人の最低限の取得分のことで、原則として遺産の2分の1が対象とされています。次男、長女の法定相続分は各自3分の1ですので、次男と長女の遺留分は各自遺産の6分の1となります。

2019年6月30日までに発生した相続には旧民法が適用されますが、旧民法では遺留分を侵害する遺言等については、遺留分減殺請求権を行使できることになっていました。「減殺」とは、御父様の遺言が、次男と長女の遺留分(6分の1)を侵害する限度で効力を減殺、つまり失効させられるということです。

遺留分減殺請求権を行使した場合の法的効果と対処法

御父様の遺言に対して、次男と長女が遺留分減殺請求権を行使すると、御父様の遺言が遺留分を保全する限度で失効しますので、すべての遺産は長男が6分の4、次男と長女が各自6分の1の持分を有する共有状態になってしまいます。

長男としては、遺留分の請求に対し、遺留分に相当する共有持分を次男と長女に移転することにより解決をすることもできますし、遺留分相当額の金銭を支払って解決することもできます。資金の調達ができず解決までに時間がかかったとしても、減殺の結果は共有財産になっているだけですので遅延損害金を支払う必要はありません。

改正民法のもとでの「遺留分侵害額請求権」とは何か?
これに対し、改正民法では「遺留分減殺請求権」ではなく、「遺留分侵害額請求権」に権利の内容が変更されました。改正民法のもとでは、遺留分を侵害する遺言を作成しても、減殺、つまり失効することがありません。

遺留分を侵害した遺言がなされたとしても、長男が全財産を取得するという遺言は有効なままです。共有状態は発生しなくなります。ただし、遺留分を侵害していますので、次男と長女は長男に対し、遺留分に相当する金銭の支払いを請求できるということになります。

遺留分侵害額請求権制度がもたらした
相続対策上の変化

遺留分侵害額請求は金銭請求ですから、具体的に金額を定めて請求があれば、長男はその翌日から支払いが完了するまでの間、法定利率である年3%の遅延損害金を支払わなければならなくなりました。

また、資金に余裕がないからといって、遺留分に相当する共有持分を次男と長女に移転すれば、通常の相続税に加え、税務上は代物弁済等と同様に譲渡所得課税が発生することになります。このため、最初から遺留分を侵害しないように他の相続人に対しても応分の財産を取得させる遺言を検討することも必要です。

新しい民法のもとでは、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変更されていることを頭に置いて、遺言を作成する必要があります。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

海谷・江口・池田法律事務所

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