土地資産家のための法務講座

相続法の改正~自筆証書に関する遺言書保管法の制定

法律で規定される遺言書の一つである自筆証書遺言は、作成手順や費用面で比較的簡便なものの、その保管方法については自己管理が必要でした。改正民法において「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が制定され、この点が改められましたので詳しく解説していきます。

私も高齢となりましたので、将来、相続で妻や子供たちが相続で争うことのないように遺言書を作成したいと考えています。公証役場で遺言書を作成する方法もあるとのことですが、その場合には証人2人が必要であり、証人から遺言の内容が漏れたりしないか気にかかりますし、公正証書の遺言は費用も結構かかると聞いています。
そこで、自分一人で簡単に作れる自筆証書の遺言を作成したいと思っています。自筆証書の遺言を作成したことは誰にも知られずに済みますが、それだけに、相続人が遺言書の存在に気が付かなければ、日の目を見ないままになるのではないかと心配です。どのようにすればよいのでしょうか。

遺言書の方式

遺言を作成する際には、遺言書は法律で様式が決まっていることに注意する必要があります。法律では、船舶で遭難した場合や、伝染病で隔離されている場合などの危急時等の4つの遺言のほかに、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの遺言が定められています。実務では、ほとんどが公正証書遺言か自筆証書遺言です。

公正証書遺言は、遺言書の原本は公証役場が保管しており、相続人が、被相続人の死亡後に当該被相続人の公正証書遺言があるか否かを公証役場に問い合わせれば回答が得られる遺言書検索システムがありますので、公正証書遺言は日の目を見ないなどということはほとんどありません。これに対し、自筆証書遺言は、これを保管する制度がなかったため、相続人に発見されなかった場合は、せっかく作成した遺言が役に立たないということもありえました。

改正民法の制定に伴う「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)の制定

改正民法が制定されるに伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(「遺言書保管法」)が制定されています。この法律は、自筆証書遺言で一定の条件を満たしている場合は、法務局が遺言書を保管し、被相続人の死亡後は、相続人等の関係相続人からの問い合わせに対して、遺言書の保管の有無や、遺言書の内容等について開示してくれる制度です。改正民法は、原則として、令和元年7月1日から施行されていますが、遺言書保管法は令和2年7月10日から施行されています。

①遺言書保管法の対象となる遺言書

今回の遺言書保管法に基づき、法務局が保管してくれる遺言書は自筆証書遺言のみです。公正証書や秘密証書は保管の対象ではありません。また、自筆証書であっても無封のものに限られています。自筆証書遺言を作成した際は、通常は、「遺言書在中」と記載した封筒に遺言書を入れ、さらに封筒に糊付けをし、閉じた部分に封緘をすることが多いと思われますが、封緘をしていない無封の状態の自筆証書遺言でなければ保管してもらえません。

②遺言者本人が自ら法務局に出頭することが必要

遺言書保管制度は、遺言者が自分の住所地か本籍地を管轄する法務局に自ら出頭しておこなわなければならないことになっています。これは遺言者本人が保管を申し出たことを確認するためです。代理人による保管の申し出は認められていません。従って、遺言書保管制度は、遺言者本人が自ら法務局に出頭できる状態でなければ利用することができません。遺言書は体力のある元気な時に作成しておくことが必要だと考えられます。

③遺言書保管事実証明書の交付請求

何人も、遺言者死亡後は、法務局の遺言書保管官に対し、自己に関係する遺言が保管されているか否かの確認を求めることができますし、「遺言書保管事実証明書」(【1】遺言書に記載されている作成年月日、【2】遺言書が保管されている遺言書保管所の名称と保管番号を記載した書面)の交付を求めることができます。これにより、相続人は被相続人の遺言書を法務局が保管しているか否かを知ることができます。

④遺言書情報証明書の交付請求

遺言者が死亡した後は、相続人、受遺者、および遺言執行者等(「関係相続人等」)は、法務局の遺言保管官に対し、遺言書保管ファイルに保管されている事項を証明する「遺言書情報証明書」の交付を請求することができます。この証明書に基づき、預貯金の払戻等の請求をおこなうことができます。

⑤遺言書保管制度を利用した遺言については家庭裁判所の検認が不要

遺言書保管制度を利用した場合には、その遺言については家庭裁判所の検認手続きを取る必要がありません。

遺言書保管制度の活用

遺言書保管制度を活用すると、遺言書の紛失や、その後の偽造・変造のリスクがなくなります。特に、家庭裁判所の検認が不要となりますので、被相続人の預貯金を特定の相続人に相続させる旨の自筆証書遺言を作成し、遺言書保管制度を利用すれば、相続開始後、相続人は検認を経ることなく金融機関にその払い戻しを請求することが可能になりますので、預貯金が当然分割ではないことを前提とする改正民法のもとでも、スムースに預金の払い戻しがなされることが期待されます。

東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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