全国規模で広がる賃料上昇の波
図表1は、東京都23区内の賃貸マンションの賃料推移(平均坪単価/築10年以内、すべての間取りタイプの平均)です。2021年1月に1万4780円だった坪単価は、2022年末頃までは横ばいでしたが、2023年から上昇に転じています。その後も右肩上がりを続け、2026年1月には1万7597円まで上昇しています。
賃料上昇の要因の1つとして挙げられるのは、物価の上昇です。あらゆる商品・サービスが値上がりする中で管理費なども上昇傾向にあり、賃料を引き上げる必要性が高まっています。
また近年、特に首都圏を中心に家賃補助を設けたり、金額を増やしたりする企業も増えています。家賃補助は一時期、コスト削減として多くの企業で縮小・廃止される動きが見られましたが、人材確保のために復活させる傾向が強まっているのです。家賃補助の復活により、多少賃料が高くてもよい部屋に住みたいというニーズが喚起されていることも、賃料上昇の要因の1つと考えられます。
賃料上昇の傾向は首都圏に限ったことではありません。図表2は全国158地点(東京都区部や政令指定都市、県庁所在都市などの核都市、三大都市圏の衛星都市やそれ以外と市場規模に応じてセグメントした中から、それぞれ均等に選定)において、賃料が上昇した地点、横ばいの地点、下落した地点の数を表したものです。
2004年には下落している地点が多くを占めていましたが、2012年頃からは上昇した地点が増え始め、2024年には半数に拡大しています。
つまり、賃料上昇の傾向は首都圏に限定されず、その裾野は全国に広がっている。それが、昨今の賃貸住宅市場の特徴的な現象といえるでしょう。
賃貸のターゲット層拡大も高賃料・高稼働の要因に
もう1つ注目したいのは、賃貸住宅を利用する人の層に変化が生じているということです。
ご存じの通り、現在、首都圏を中心に分譲マンションの価格が上昇しており、新築では2026年1月時点での平均価格が8383万円と、前年の1月に比較して14・2%増と大きく上昇しています(不動産経済研究所「全国新築分譲マンション市場動向」より)。それにより持ち家を視野に入れていた世帯が購入を当面控え、賃貸住宅を選ぶケースが出てきているのです。賃貸住宅を選ぶ人の層が広がるということは、そのぶん賃貸住宅の需要が高まるということです。これも賃料上昇の追い風となっているといえるでしょう。
図表3は、三井不動産レジデンシャルリースによる都内および首都圏のサブリースも含めた管理物件の稼働率です。
サブリースとは、不動産会社がオーナー様から賃貸物件を借り上げ、入居者に住戸を貸し出し管理するものです(詳細は10ページのコラムをご覧ください)。前述のように賃料水準が上昇傾向にある中でも、稼働率は従来通りの90%台後半と非常に高い水準を維持しています。
なお、分譲マンションの価格については、後述する建築費の高騰などにより短期的に下がることは考えにくいといえます。そのため、当面は賃貸住宅のニーズが高い状態が続き、賃貸住宅市場には追い風であるといえるでしょう。
賃貸不動産の課題を解決するバリューアップとは?
賃貸住宅市場が活況を呈し、かつ賃貸住宅を選ぶ層が年収の高い世帯まで広がることにより、市場における競争力を高く維持する、つまり「選ばれる物件」の条件を揃える重要性が今後さらに増すと考えられます。
例えば設備や間取りに最新トレンドを取り入れるなどして入居者のニーズに高い水準で応える物件は賃料が多少高くとも選ばれる一方、そうでない物件は検討初期段階で候補から外される傾向が強くなるということです。特に築年数が経過している、近隣に競合する物件が多い、現在の地域のニーズに物件の間取りや設備などが合っていないといった理由から競争力が下がっている場合は、「選ばれにくい物件」になる可能性が高いといえます。
現在、賃貸住宅の新規供給量が減少傾向にあるため、既存賃貸住宅の需要は高まっています。ただ、既存賃貸物件の中で需要が高いのは築10年以内の物件であり、築20年以上経過した物件になると苦戦しがちになってきています。
さらに築30年に近い、あるいはそれ以上の物件では賃貸住宅としての魅力が低下し「選ばれない物件」になっている可能性が高くなります。築20年以上の賃貸不動産を所有している場合は、ご自身の代だけでなく、次世代においても「選ばれる物件」とするために、早めに戦略の検討を進めておくことが重要です。
では、どのような戦略をとるべきなのでしょう。
建替えの選択肢の注意点
まず思い浮かぶのが建替えですが、建替えには現在大きなハードルがあります。図表4は、東京都における集合住宅(鉄筋コンクリート造[RC造])の建築費の推移を表したものです。
2015年の工事原価の平均を100とした場合、2026年2月の工事原価は143・2と約1・4倍にまで上昇しています。資材費や人件費の上昇により、建築費が大幅に高騰しているのです。
言うまでもなく、建築費の高騰は建替えには逆風であり、事業性にも影響を与えます。コスト回収を含め採算を考えると、賃料をかなり高く設定しなければならず、その結果、空室リスクの上昇などの懸念も生じます。
しかし、一定の築年数が経過した賃貸不動産をそのまま放置していたら、次世代において賃貸経営の維持・発展に課題が生じる可能性があります。
バリューアップのメリット
そこで有効な戦略の1つとして考えられるのが、改修・リノベーションにより保有する賃貸不動産をバリューアップする手法です。この手法ならば建替えに比べ大幅に費用が抑えられ、投資回収のために無理に高い賃料を設定しなければならなくなる、というリスクを低減することができます。
加えて、建替えでは全入居者の立ち退きができないと着手できず、さらに賃料収入が長期間途絶えることになりますが、改修・リノベーションでは工事内容によっては退去が決まった部屋から順次実施するという選択肢もあり、その場合は収入を途絶えさせずに済むというメリットがあります。
現在、改修・リノベーションについてオーナー様からのお問い合わせも増加しています。次世代経営を見据えバリューアップを図るための積極的な戦略として、有効な手段と考えるオーナー様が増えているのです。
大切なのは最新トレンドを踏まえること
では、改修・リノベーションを実施し賃貸不動産をバリューアップする際に気をつけるべきことはなんでしょうか。それは、最新トレンドをしっかり踏まえることです。ここでのポイントは、設備と間取りです。
まず設備に注目してみましょう。建設当初は「付加価値を高める設備」だったのが、時の流れとともに「必須の設備」となったものも少なくありません。例えばエアコン(1戸に1台)、浴室換気乾燥機、温水洗浄便座、システムキッチン、オートロック、独立洗面台、宅配ボックス、室内洗濯機置き場などです。ファミリー向けでは浴室の追い焚き機能もマストでしょう(図表5)。
一方、2026年現在で「付加価値を高める設備」として挙げられるのは、全部屋エアコン設置、床暖房、食器洗浄機、インターネット無料(高速回線だとなおよい)、高い防音性などです。いずれも当社からテナント様に実施したアンケートで、「あればうれしい」と回答された項目です。この他、IoT対応設備、ノンタッチキーやハンズフリーで共用部に入れるラクセスキー、ワークスペース設置など共用部の充実といったものもあります。
また、収納を充実させるのも効果的です。小さくともウォークインクローゼットを設ける、デッドスペースがあれば収納を設ける(例えば、脱衣所のタオル収納など)といった工夫で収納率を高めることをお勧めします。
もう1つの間取りにも人気の移り変わりがあり、コロナ禍のさなかではリモートワークがしやすいように部屋数が重視されたのが、現在は部屋数の多さよりもLDKや居室の広さが重視される傾向があります。これを踏まえ、構造的に実現可能であれば2LDKをリビングの大きな1LDKにするなどの改修も選択肢になります。
一方、共用部としてはエントランスの改修・リノベーションも物件の印象を刷新するのに効果的です。また、物件の状況などによってはエントランスに食品の自動販売機を設置するケースもあり、便利さが入居者から好評を得ています。
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