今もなお記憶に生々しい、某銀行の不正融資事件。
その真相を端的に言うと「物件価値に見合わない多額の融資を返済能力のない投資家にしてしまった」ということです。
この事件で破綻している投資家は、一般のサラリーマンや公務員など、身分がしっかりした人がほとんどです。老後の資金など、将来のための貯えを使って、より良い将来の安定的な生活を夢見て投資物件を購入したのです。そういう人は、比較的まじめで勤め先での評価もありますから、苦しくても何とか融資を返済しようとします。結果として、将来のための貯えは無くなり、借金だけが残ってしまいます。
不動産投資は、その仕組みを知ったうえで適正な物件に適正な金額を投資するのであれば、自分の代わりに「不動産」が働いてくれて、安定的な収益をもたらしてくれます。反対に、仕組みを知らずに投資すれば大きな損をすることもあります。 不動産投資の仕組みは3つの要素からなります。
・投資額 ・物件選択 ・融資
今回は、その中の「投資額」「融資」の2つの項目で重要な話をしましょう。
レバレッジ効果
不動産投資にご興味がある方はご存じかもしれません。レバレッジとは梃(テコ)のことで、物理的には「小さな力を大きな力に変える」働きをします。投資でいう「レバレッジ効果」とは、「融資」という梃を使うことで、自己資金だけで投資するより大きな利益をもたらすことです。レバレッジ効果を図に表してみましょう(図1参照)。
自己資金1,000万円に4,000万円の融資をプラスした合計5,000万円を年間10%の収益が期待できる物件に投資をすれば、一年で500万円の収益が期待できます。自己資金に対する表面的な投資利回りは50%になります。融資の返済を年間300万円にしたとしても、年間200万円が手元に残りますので、自己資金に対する利回りは20%になります。一年で投資をやめて購入価格と同じ金額で物件が売却できれば、1,000万円の自己資金が1,200万円に増えることになります。これが「レバレッジ効果」を使った成功のシナリオです。
マイナスのレバレッジ効果
先ほどと同様の投資をして、賃料収入が50%下がってしまったとしたらどうなるでしょう。
5,000万円の投資に対して賃料収入は250万円ですので、投資利回りは5%ですが、融資の返済を300万円すると手残りどころか年間50万円の赤字になります。たまらず物件を手放そうとしたときに物件価格が10%下がっていたらどうでしょうか? 5,000万円で購入した物件を4,500万円で売却し、4,000万円の融資を返済すると手残りは500万円になってしまいます(図2参照)。
賃料収入が減って50万円持ち出した分を考えると、1,000万円の自己資金が450万円に目減りします。5,000万円に対しては10%程度の損でも、自己資金に対しては50%以上の損になってしまうのです。
実際、某銀行の案件ではこのような事案が少なからず起きています。
不動産投資で損をする原因
不動産投資で損をする要素は2つです。
●物件価格が下落する
●賃料収入が落ち込む
短期的に投資する場合「物件価格の変動」が、投資の成否を大きく左右します。不動産投資ファンドなどは、3年~5年で物件を入れ替えるため、物件価格の変化をある程度予測して投資します。逆に一般投資家が不動産投資をするときは、中長期的に安定した収益を期待した投資をするべきなので、「賃料収入の変化」に重点を置くべきでしょう。
仮に、物件価格が下落しても、賃料収入さえ想定通り安定的に入ってくれば、将来的に投資した資金が回収でき、キャッシュフローも安定的に増えていきます。しかしながら、マーケットが変わって「賃料収入の減少」や「修繕コストの増加」といったことが起こる可能性を考慮にいれておかないと見込み違いが起きてしまいます。
LTVは70%までに
仮に、年間200万円の賃料収入があがる物件に投資をする場合、年間180万円返済しなくてはならない融資を借りるとすると、手残りは20万円しかありません、この物件の賃料が5%下落すれば収入が190万円となり、手残りは10万円。賃料が10%下落すれば手残りは無くなり、それ以上なら手元資金まで持ち出して融資を返済することになります。
原則として、物件価格に占める融資額の割合(LTV:Loan to Value)は、70%程度までにしておくのが良いでしょう。
そうすれば、自己資金を持ち出して融資を返済しなくてはならないようなことにはならないと思います。あとは、投資に見合う「物件を選ぶ」ことです。 正しい物件を選択すれば、安定収入が約束されます。
※本記事は2020年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。