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一次相続対策のみでは、後の“争族”につながる?「二次への備え」が家族円満のカギ【第3回】

情報誌レッツプラザ2024年Summer号より引用

前回は、二次相続で“争族”が発生しやすい要因について解説しましたが、そうした事態を回避するにはどうしたらよいのでしょう。ここでは、一次相続のみならず、問題が起こりやすい二次相続も乗り越え、家族円満を実現するための対策について押さえていきましょう。

一次・二次相続を乗り越え、家族円満を実現した事例

一次・二次相続を踏まえた相続対策を行うには、早い段階から検討が必要です。ここでは、早めに方針を決め家族で話し合ったうえで遺言書を書いたり、法人化などのスキームを活用したりしながら包括的な相続・認知症対策が実現できた事例をご紹介します。

事例❶ 土地とビルの複数戸を等価交換し、スムーズで満足のいく相続を実現

企業経営者のTさんはターミナル駅の駅前に150坪の土地を所有し、自社ビルを構えていました。しかし数年前から駅前再開発計画が進行し、Tさんにも事業者から土地売却の打診がありました。Tさんの主な資産はその土地と自宅のみで、先々相続が発生することを考えると分割しづらい土地のまま保有し続けることは得策ではありません。

そこで、Tさんはその土地と再開発で新設される複合ビルの一部を等価交換することを検討し始め、自分と妻の相続について詳細を決めるために3人の子どもたちと話し合いました。将来事業を承継する長男は会社の経営を考え、等価交換をするのであれば収益性の高い賃貸商業区分を相続したいとのこと。ほかの2人の子どもは会社勤めのため、管理手間がかからず、売却しやすい賃貸住宅区分の相続を希望。話し合いの結果、等価交換を実施のうえ、複合ビルの賃貸住宅区分8戸、賃貸商業区分4区画を取得し、一次相続でそれぞれに相続することにしました。また、自宅は相続税評価額の最適化も考慮し一次相続では妻に相続しますが、妻の相続が発生したらTさんと同居している長男が相続することで話がまとまりました。

このように家族で話し合い納得したうえで、Tさん夫妻はそれぞれ遺言書を作成しました。数年後、Tさん夫妻に一次・二次相続が発生しましたが、しっかりした話し合いと遺言書があったことからスムーズで満足のいく相続を実現することができたのです。

事例❷ 相続人を役員とした法人を設立し、不動産を相続しない妹にも遺産分割

父親が亡くなり、母親と長女のNさん、妹が遺産を相続することになりました。遺産は、自宅および賃貸アパート1棟、約4,000万円の現預金です。

父親は生前、妻が将来認知症になる可能性も考慮し、自分たちと同居しアパート経営も手伝ってくれているNさんに一次相続で小規模宅地等の特例を使いながら2つの不動産を渡したいと考えていました。一方、現預金の多くは妻に今後の生活資金として相続したいと思っていました。しかし、それでは妹の相続分が非常に少なくなってしまいます。そこで、父親は前述の内容に加え、法人を利用した妹への支払い方法も含めて遺言を作成していたのです。

一家は遺言を実行。まずNさんは物件を相続するとともに、母親とNさん、妹を役員とした法人を設立。法人は銀行から融資を受けてNさんからアパートを取得し、Nさんは物件の売却資金で相続税を納めました。そして、法人に入ってくる賃料収入に関しては、母親が亡くなるまでの間、妹には役員報酬として年間1,500万円を支払い、それを一次・二次相続における妹の相続分とするという旨の覚書を交わしました。

自宅も収益物件もNさんが取得するという不公平な一次相続になりそうなケースでしたが、法人を活用することにより二次相続時の分割まで解決することができたのです。

相続について家族で話し合ってみませんか

円満相続を実現するには一次相続が起きてから、あるいは二次相続が起きてから対策を考えるのではなく、相続発生前から準備を進めることが重要です。財産を残す親世代の想いをどのように伝えていくかもとても難しいですが、財産を譲り受ける相続人それぞれの置かれた立場や経済的な事情も変わっていきます。そして、対策の手法も決まったものはありません。そのため、相続対策はご自身がじっくりと考えられる期間を見据えて検討し始めることをお勧めします。

認知症のリスクを軽減するためにも、できれば60代から検討してみてはいかがでしょうか。そして、その際には信頼できる専門家に相談しながら進めていただきたいと思います。そのようにじっくりと準備をして進められれば、“争族”も回避しやすくなり、結果として円満な形で世代間における財産の承継が実現できることでしょう。

この機会に、相続について家族で話し合ってみてはいかがでしょう。親世代の相続に関し、子どもたちを含めて話すことが安心感や家族のまとまりにつながります。親世代の皆様は「相続税を含めて専門家に相談してみようと思う」「みんなが困らないよう、専門家にも相談しながら考えている」といったところから話を始め、ご家族でオープンに話してみてはいかがでしょうか。

公認会計士・税理士。1967年、神奈川県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、安田信託銀行入行。2000年、公認会計士登録。2002年、山田&パートナーズ会計事務所、株式会社ソニーを経て、タクトコンサルティング入社。2009年、税理士法人タクトコンサルティング代表社員就任。2020年、株式会社タクトコンサルティング代表取締役社長就任。現在、税理士法人タクトコンサルティングにて、相続、譲渡、交換、土地活用、企業組織再編、M&A、事業承継対策等の実務に携わる。

税理士法人タクトコンサルティング 代表社員・株式会社タクトコンサルティング 代表取締役社長

山田毅志 氏

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