資産活用

本格的な「ストック型社会」の到来(1)

本格的な「ストック型社会」の到来(1)

「ストック型社会」、あるいは「ストック時代」という言葉が使われ始めて既に久しいですが、2009年は、わが国の建設・不動産市場が本格的なストックマーケットに入った最初の年として記憶されるのではないでしょうか。それは2つの事実、すなわち、住宅のストック数とフロー数の統計により裏付けることができます。

まず、住宅ストック数については、平成20年住宅・土地統計調査の速報集計によれば、平成20年10月1日現在における全国の総住宅数は5,759万戸、そのうち756万戸(13.1%)が空き家となっています(図1)。また、総世帯数は4,999万世帯となっています。

これを前回調査の平成15年と比べると、総住宅数は370万戸(6.9%)、空き家数は97万戸(14.6%)、総世帯数は273万戸(5.8%)の増加となっています。実に、住宅増加数の約4分の1余りが、結果的に空き家数の増加として現れていることに注目すべきでしょう。

一方、住宅のフロー数については、わが国の新設住宅着工戸数は、1967年以来、40年余りにわたって100万戸以上を保っていましたが、2009年には80万戸をも下回る可能性が高くなっています。

図2は、1999年以降2008年までの全国、首都圏、東京都の新設住宅着工戸数の推移を示したものです。2000年代に入っても、概ね120万戸前後で推移していた新設住宅着工戸数は、2007年には、いわゆる耐震偽装問題に端を発する建築基準法改正の影響により、106万戸と、前年の129万戸から急減したものの、2008年には109万戸に回復し、当分の間は100万戸の大台を保つものと思われていました。

それが、2009年には、100万戸どころか80万戸の大台すら下回る可能性が高いのです。図3は、2006年から2009年までの毎月の全国新設住宅着工戸数の推移を表したものですが、これを見ても2009年の着工戸数は際だって低水準なことが分かります。

こうした住宅着工戸数の落ち込みは、一般には、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界金融危機の影響と言われていますが、果たしてそうでしょうか。私は2009年の住宅着工戸数が、これからの時代におけるわが国の住宅着工戸数の一つのバロメーターになるものと考えています。

というのは、わが国の新設住宅着工戸数のこれまでの推移が、欧米の先進国のそれに比べ、極めて特殊だったからです。

図4は、わが国の他、米国、英国、フランス、ドイツにおける人口千人当たりの新設住宅着工戸数の1990年から2003年までの推移を表したものです。

わが国においては、人口千人当たりの新設住宅着工戸数は、バブルの崩壊にもかかわらず、90年代の前半を通して12戸前後を保っていました。これは、その当時の政府の景気対策として、住宅減税や住宅ローンの拡充(いわゆる、ゆとりローンなど)などにより、持ち家を中心とする住宅建設が促進されたためと考えられます。その後、1998年頃からは人口千人当たり10戸の大台を割ったものの、9戸程度で推移していました。

これに対し、90年代半ば以降景気拡大を続けていた米国においても、人口千人当たりの新設住宅着工戸数は2003年になってようやく6戸を超える程度であり、フランスは5戸、英国とドイツは3戸程度となっていました。すなわち、2003年当時においても、人口千人当たりの新設住宅着工数で、わが国は欧米先進国の1.5~3倍程度の極めて高い水準を維持していたことが分かります。

住宅ストック数が総世帯数を15%あまり上回り、2004年をピークに総人口が人口減少に転じたわが国の現状を踏まえると、従来の新設住宅着工戸数水準を今後も維持することは、どう考えてみても不可能なことであり、また、地球環境問題の観点ばかりか、国民経済の観点から見ても、無駄なことなのではないでしょうか。

ちなみに、わが国と米国における2004年以降の人口千人当たりの新設住宅着工戸数は、表1の通りです。
米国では住宅バブルのピークと言われる2005年においても7.19戸であるのに対し、わが国では耐震偽装問題に端を発する建設不況の2007年においても、8.3戸という高水準を記録していることに注目する必要があります。

2009年のわが国の新設住宅着工戸数が仮に80万戸だったとすれば、人口千人当たりの新設住宅着工戸数は、6.27戸となり、はじめて、米国の住宅バブル時の水準を下回ることになります。また、2009年の実績は、政府の大規模な景気刺激策の中での数字であり、既存住宅ストックの質が徐々に向上しつつあることからも、今後、新設住宅着工戸数が大幅に増加する可能性は少ないものと考えられます。

こうしたことから、今後のわが国の新設住宅着工戸数は、中長期的には、人口千人当たり5~6戸程度の水準、新設着工戸数に置き換えれば、年間60万戸~80万戸の水準で推移するものと予測されます。

上述のような、フローとストックの両面の大きな変化により、わが国においても、欧米型の本格的なストック型社会を構築していくことが求められているのです。

こうした本格的な「ストック型社会」の到来による、不動産業や不動産市場への影響については、次回のコラムで取り上げたいと思います。

博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士、明治大学理工学部特任教授。東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、三井建設、シグマ開発研究所を経て、1997年に株式会社アークブレインを設立、現在に至る。共同ビル、マンション建替え、土地有効活用等のコンサルティングを専門とする。著書に、『建築企画のフロンティア』、『建築再生の進め方』(共著)、『世界で一番やさしい住宅[企画・マネー・法規]』(共著)など多数。

株式会社アークブレイン

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