現場発! 知って得する“不動産の今・未来”

資産承継の要は“はじめの一歩”と“計画”

大切な資産を次世代に引き継ぐことは、人生終盤のもっとも重要なイベントともいえます。その大事なイベントを成功させるためには、どのようなことに留意すればよいのでしょうか。今回は、円滑かつ円満な資産承継を実現するためのポイントについてお話しします。

記事作成日:2022年7月11日
記事公開日:2023年4月26日
記事改訂日:2023年4月26日

不動産売買仲介を主に行っている当社では、お客様から資産承継のご相談をよくお受けします。
資産承継にはいくつかの方法があります。しかし、どの方法を検討する場合でも「不動産の評価」は必要な情報であり、それを事前に把握したうえで資産承継検討の“はじめの一歩”を踏み出すことになります。では、どのように踏み出せばスムーズな資産承継が実現するのでしょう。

次世代の方の意見を聞き、それを考慮した計画を立てる

「忙しい子どもに賃貸管理の苦労や手間をまだ引き継ぎたくない」「自身の収入源でもあるため、すぐには不動産を手放せない」「住まいも兼ねているので、売却によって生活環境を変えたくない」……。資産承継にまつわるお悩みは多岐にわたりますが、どのような場合でも、まずは「次世代の方と相談すること」から始めていただきたいと思います。それが、資産承継の“はじめの一歩”となります。

次世代の方が将来その不動産を引き継ぎたいのか、引き継ぎたくないのか、あるいは不動産ではなく別の形の資産でもよいのか、そうした漠然とした考えを聞くだけでもよいのです。それにより資産承継方法の方向性が見えてきます。
次世代の方のお考えが分かったら、次は相続後のことまで見据えた“計画”を立てましょう。
実行に移すのは先でも構いませんが、計画策定までは早めの段階で終えておくことが大切です。

事例から学ぶ円滑な資産承継の秘訣

“はじめの一歩”と“計画”を軸に、お客様の事例を見てみましょう。

事例1 「引き継がない」という次世代の意思を把握し、計画を実行

姉妹であるT様とO様は、築28年の一棟賃貸マンションを共有しており、その最上階にそれぞれお住まいでした。ともに70代になり資産承継について考え始めたT様とO様。そこでお子様たちに相談したところ、お子様たちは将来、従姉妹同士でこの賃貸マンションを共有することへの懸念もあり、当マンションを引き継がないという意思を明らかにされました。お子様たちの考えを知ったT様とO様は、築年数がまだ比較的浅いうちに賃貸マンションを売却して自分たちの代で共有を解消するとともに、お子様のお住まいの近くへ移転したいというT様の希望、現状の生活環境を維持したいというO様の想い、そのどちらも実現するというゴールに向かって準備を進めることにしました。

当社では、まず賃貸マンションの売却スケジュールを立て、それに合わせてT様の移転先の居宅の物件探しを並行して進めました。売却資金を購入資金に充当する場合は、契約・引渡スケジュールを視野に入れつつ、お取引のお相手との諸条件調整を適切に行う必要があります。
一方、現状の生活環境を維持したいO様には、賃貸マンション売却後、現在お住まいの住戸をリースバック(賃借人として新所有者と賃貸借契約を締結)することをご提案。その結果、仮住まいや買い替えローンを利用することなく、お2人にとって最適な資産整理をすることができたのです。
現在の好調な不動産マーケットも追い風となり、想定した評価よりも好条件で売却できたこともスムーズな資産承継の一助となりました。

事例2 「引き継ぎたい」という希望は把握していたが、計画が不十分

K様(70代)は広い敷地の道路側に築49年の一棟賃貸マンションを所有し、その奥にあるご自宅で暮らしています。K様は最近、賃貸マンションで頻繁に起こる水漏れに頭を悩ませていました。原因は配管で、現在は応急処置でしのいでいますが、大規模修繕が必要だと思いつつも、旧耐震のマンションに多額の費用をかけるのもいかがなものかと悩んでおられました。

そこで、資産承継を念頭に3人のお子様に相談したところ、お子様たちは不動産経営を引き継ぎたいというご希望でした。大規模修繕費用を捻出できないK様は、悩んだ末にお子様たちが相続してから建て替えてくれればよいと思い、大きな工事を見合わせることにしたのです。

しかし、建て替え費用の積み立て期間や工事実施時期の計画もないまま、お子様たちがこの賃貸マンションを相続した場合、費用の負担や賃借人への立退き交渉などの難題を3人のお子様が団結して行うことができるでしょうか。また、仮に建て替えができたとしても、将来お子様たちの相続が発生した際には再び共有の問題が出てきてしまいます。そして、代を経るごとに共有名義人が増え、共有の解消はさらに難しくなります。

また、K様のケースは、老朽化した賃貸マンションだけではなく、自宅にも課題があります。賃貸マンションの裏手に建つ自宅の土地は接道が3m程度、奥に広くなっている路地状敷地です。行政によって建築できる建物に制限がありますので、手前の賃貸マンションのみ対策を施してしまうと、奥の広い土地を十分に活かせなくなる場合があるのです。

こうした事態を避けるためにも、K様は賃貸マンションだけではなく、奥に建つ自宅も含めた一体の不動産について、共有回避に向けた対策の検討を進めるべきでした。お子様たちにご相談するという“はじめの一歩”は踏み出したK様でしたが、計画策定には至らず、課題や悩みを次世代に先送りしてしまったことが大きな問題といえます。これは、お子様たち同席のもとで、再度計画を検討する必要があるケースです。

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大切な資産を将来誰に引き継ぐのか、引き継ぐには今何をしなければならないのか、引き継がないならどのように活用するのか。この機にお考えになってはいかがでしょうか?
現在、不動産を共有されている場合は相手のお考えもあるでしょう。話し合いは早めにスタートすることに越したことはありません。現在の好調な不動産マーケットを利用することも一つです。決断を先延ばしにして次世代の方たちに悩みの種を残さないよう、今回の記事をご参考にぜひご親族で考えるきっかけをつくっていただければと思います。

 

三井不動産リアルティ株式会社
ソリューション事業本部

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