老朽化不動産の処方箋【第2回】建替え

「建替え」による用途変更がもたらした、数々の問題解決とは?

老朽化対策

築48年で旧耐震基準の小規模オフィスビルを所有する都内T区のA様は、大口テナントの移転をきっかけに、経営上の岐路に立たされました。そして、様々な環境条件、事業性や安定性、将来性などを比較検討した結果、「建替えによるオフィスビルから賃貸住宅への用途変更」を決断したのです。代々受け継いできた所有地を手放すことなく、将来性のある安定的な事業基盤を確立するまでの事例を紹介します。

改修に伴う制約も建て替えることでクリア

オフィスから住宅に用途変更する場合、現状の建物の構造や現行法規などの問題から様々な制約を受けることがあります。例えば、オフィスビルには通常バルコニーはありませんが、マンションでは避難経路の確保のためにバルコニーの設置が必要になるケースがあります。また、柱の位置の移動やスパンの変更ができないことから住戸割りの制約を受けることによって、事業性の観点からは非効率な住戸割りや間取りになってしまう可能性があるのです。

また、オフィスから住宅への用途変更には建築確認申請が必要となり、採光や避難経路の確保など住宅にはオフィスよりも厳しい条件が課せられます。建替えなら建物を一から設計するため、これらの制約をクリアできるので、効率的な住戸割りや間取りが可能になるのは言うまでもありません。

新築の性能は年々向上しており、大きな支出を伴う大規模修繕を定期的に実施するとしても新築との性能差は広がっていきます。空室増加や賃料低下を招くこうした性能低下の問題も、当然ながら建替えで解決できるのです(図2参照)。

相続税対策としても効果的。ただし気をつけたい点も

一般的に、建替えは改修に比べて投資額が大きくなる傾向にあることから、結果として相続税の節税効果が最も高くなる手法と言えます。ただし、高い節税効果ばかりに注目して収益性や事業性を度外視するような計画は大きなリスクを伴うため、全体を俯瞰する中長期的な資産経営の視点から事業の可否を判断することが重要です。

また建替えは、入居者の立退き交渉から始まって建物解体、そして新築工事と、その事業期間が長期におよび、無収入期間が相対的に長期化します(図3参照)。さらに、建替え期間中に相続が発生した場合、その土地は貸家建付地評価ではなく更地評価となってしまうので、建替え実施のタイミングに留意が必要です。

規模拡大と新築賃料水準で改修以上の高収益化を実現

建替えにより住宅への事業転換を実現したA様のケースでは、容積率消化に伴う事業規模の拡大と、市場競争力に優れた新築物件としての高い賃料水準によって初年度から収益性が大幅に改善。新築マンションで耐震性の不安も解消し、景気や社会情勢の影響を受けにくい底堅いニーズに支えられた賃貸住宅経営を通じて、A様は代々受け継いできたご所有地を手放すことなく、将来性のある安定的な事業基盤を確立できました。

※本記事は2019年10月号に掲載されたもので、2021年12月時点の法令等に則って改訂しています。

SNSシェア