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優先順位は「強→用→美」。リファイニング建築がもたらす恩恵とは

老朽建物の構造躯体を再利用しながら、建替えをせずに新築同等に蘇らせる再生手法「リファイニング建築」の第一人者・建築家の青木茂氏。いま業界のみならず熱い視線を集めるご本人に、改めてリファイニング建築の意義についてお話を伺いました。

壊すから活かす。建物を再生させる時代へ。

リファイニング建築で老朽化した建物をよみがえらせる「再生建築」という考え方。

老朽化した建物の資産価値を再生させる方法は、建物を壊してから新たに建て直す“スクラップ&ビルド”だけではありません。

例えば、既存の建物の構造躯体を利用しながら、デザインはもちろん、間取りや建物用途まで刷新し、耐震補強などによって安全性も高める「リファイニング建築」。建物を解体・新築する場合に比べ、環境への負荷や建築コストを大幅に低減できる新発想の資産再生手法として、近年、公共建築物や賃貸住宅などを中心に採用される動きが活発化しています。

その優位性や考え方などについて、28年前からリファイニング建築に取り組んでいる第一人者、建築家の青木茂氏にお話を伺いました。

※本記事は2014年6月号に掲載されたもので、2021年12月時点の法令等に則って改訂しています。

コストも環境負荷も低減できる
リファイニング建築の優位性

私がリファイニング建築を最初に手がけたのは、今から28年前。 郷里・大分にあった旧海軍の施設を観光施設としてよみがえらせる仕事でした。 以来、集合住宅やオフィス、病院などの民間の建物のほか、図書館やホール、公民館といった公共建築物など多種多様な建物のリファイニング建築を手がけています。

既存の建物に手を加えるという意味では、「リフォーム」や「リノベーション」といった言葉もありますが、リファイニング建築というものを定義する上では、次の5つの特徴が挙げられます。

まず初めに、「用途変更ができる」ということです。例えば、区役所を図書館に、寄宿舎をデイサービス施設に、デパートを集合住宅に、オフィスビルを病院に、そんな大胆な用途変更にも対応しています。

2番目が「耐震性能の向上」です。古い時代に建てられた建物も軽量化や補強によって、現行の耐震基準まで耐震性能を引き上げることができます。

続いて3番目に挙げられるのが「意匠転換」、つまり建物外観・内部のデザインの大胆な変更です。実際に完成したリファイニング建築をご覧になっていただくと、皆さん新築にしか見えないとおっしゃいます。

4番目が「低コスト」です。リファイニング建築では建物の基礎や柱、梁など既存の躯体を使えるため、建替えに比べると費用は大体60~70%程度に抑えられます。

そして最後が「環境にやさしい」という点です。ごみの発生量は新築の約半分、さらにCO2発生量を見ると8割以上削減できる。つまり、リファイニング建築は極めて環境負荷の少ない手法といえるのです。

“再生して終わり”ではなく
事業として考えるトータルな視点

こうした様々なメリットをもつリファイニング建築のプロセスは、建替えのそれと大きく異なります。まずやらなければならないのが、既存の建物が設計書通りに建てられていて、建築当時の法律に適合しているかどうかを確認するための調査です。古い建物の場合、建築の確認申請書がないことも珍しくなく、この作業にはいつも大きな困難が伴います。そして、法的な調査が済んだあとは、主に耐震性の観点から建物の構造を細大漏らさず徹底的に調査します。

私たちは長年にわたる経験の中で培ってきたノウハウを駆使しながら、一筋縄ではいかないこうした調査や検査をやり遂げ、さらにその後で、審査をおこなう役所と細かい点まで交渉を重ねていかなければなりません。こうした過程を重視し、建物の安全性や耐震性といった観点からプロジェクトに着手していくことがリファイニング建築に求められるプロセスなのです。そして、このことがデザインや間取りのリニューアルに主軸を置いたアプローチとの違いを生んでいる点だといえるでしょう。

また私たちは設計という領域に留まらず、例えば賃貸マンションやオフィスビルなどをリファイニング建築によって再生した場合の事業収支までも算出します。借入れや賃料相場などをもとに、稼働率80~90%でシミュレーションして、きちんと収益を上げられることを提示しますが、完成後はほとんどの物件が90~100%で稼働しているようです。

建築家だからといって、どれだけ収益が上げられるかはやってみないとわからない、というのではあまりに無責任ですし、お客様のためにならないものをつくっても仕方ない。だから、公共建築を再生する場合でも「この建物だったらどのくらいのコストがかけられるか」といった事業性の視点をもつのはとても大切なことだと思います。

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