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震災Q&A 損害賠償金・災害見舞金を支払った場合

震災Q&A 損害賠償金・災害見舞金を支払った場合

東京電力の損害賠償に関わるニュースが連日世間を騒がせています。この地震に伴い、東京でも貸家のブロック塀の一部が落ち、お隣さんの物置や、借家人の車等を傷つけてしまったなどの例がありました。この場合、不動産賃貸業を営む個人や法人が加害者として損害賠償金を要求されたケースが時折見受けられます。

今回は不動産賃貸業を営む個人及び法人が損害賠償金を支払った場合、税法を中心にどのような対応となるのかについてまとめてみました。類似したケースで災害見舞金という形で支払った場合もあわせてご紹介していきます。

どのようなときに損害賠償金を支払わなければならないの?

地震により個人事業者が所有する貸家の瓦の一部が崩れ落ち、借家人の車をへこませた場合を想定します。

地震の場合は「不可抗力」と考えられ、貸家のオーナーである個人事業者は一般的にはなんら責任を問われません。

しかし、今回の地震のような場合でも、近隣の建物ではそのような事故は起きていないのに、この建物だけ瓦が落ちている場合は、オーナーに責任が生じてしまう場合がありますので要注意です。

借家人は通常の使用をしている限り責任は負いません。この建物だけ瓦が落ちている場合は、地震が直接的な原因ではなく、「建物の設置及び保存の瑕疵」があるとも考えられるので、オーナーである個人事業者に損害賠償責任が問われてしまいます。

損害賠償金はいつ必要経費にできるの?

原則として損害賠償金は、負担すべき損害賠償金の総額が確定する年に必要経費に算入します。したがって、裁判などでは損害賠償金の総額が決定するのに長い時間がかかってしまう場合もあります。

そのため、特例として以下のような場合は、一定額を必要経費に算入することが認められています。

  1. (1)年末までに、相手方に具体的に申し出た金額がある場合はその金額
  2. (2)年金(分割)で支払うこととした場合、支払期日が到来する金額

法人の場合も、原則は損害賠償金の総額が確定した事業年度に損金算入します。なお、内払いした損害賠償金については、その支出額を支出の日の属する事業年度の損金の額に算入することができるものとし、法人の意思を尊重する取扱いをしています。

個人事業者が損害賠償金を支払う場合の相続税法上の扱いは?

加害者として損害賠償金を支払う個人事業者が、仮に、死亡した場合(その個人事業者が被相続人となる場合)を想定します。

被相続人は加害者としての損害賠償金の責任を負った状況下で死亡すれば、相続人はその賠償責任を相続により承継することになります。損害賠償金が損害賠償責任の範囲内のものと認められるときには、被相続人の債務に該当します。

したがって、この損害賠償金は相続税の計算上、債務として控除することができます。

個人事業者が災害見舞金を支払った場合、税務上はどうなるの?

Q1と同様のケースを考えます。

ただし、被害者からの申し出により損害賠償金を要しない場合を想定します。損害賠償金の支払いを要しないとはいえ、せめてもの気持ちとして災害見舞金として支払うことにしました。

損害賠償金には、慰謝料、示談金、見舞金等の名目を問わず、他人に与えた損害を補填するために支払う一切の金額が含まれます。

したがって、この税務上の取扱いは損害賠償金と同様、個人事業者の必要経費となります。なお、法人の場合も同様の扱いです。

個人事業者が従業員に災害見舞金を支払った場合、税務上はどうなるの?

個人事業者が、地震により被害を受けた従業員やその親族に対して一定の基準にしたがって支給する災害見舞金は福利厚生費として必要経費となります。なお、法人においても同様に扱われます。

また、個人が受け取る災害見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、贈与税・所得税の課税の対象とはなりません。

法人が取引先に災害見舞金を支払った場合、税務上はどうなるの?

法人が地震前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して支払った災害見舞金は交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。ここでいう取引先には得意先等だけではなく、資本関係のあるグループ企業の子会社等も該当します。

ただし、取引先の役員や従業員へ個別に支払った場合は接待、慰安、贈与に類する行為のために支出するものとして交際費等に該当してしまいます。

Q4、Q5、Q6に見るように、災害見舞金については、支払う相手によって取扱いが違うため注意です。

なお、被災地一般に対する災害見舞金は前回ご紹介したとおり、寄付金となります。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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