土地資産家のための税務講座

事前に知っておきたい、相続税の延納・物納とは?

相続は突然発生することが多いにも拘わらず、納税は現金一括納付が原則です。とはいえ、金額が大きすぎてすぐに現金を用意できないケースもあるでしょう。そういった場合、延納・物納という手段を採ることができるのですが、納付者が自由に選べるわけではありません。今回は、相続税の延納・物納について解説していきます。

相続税の納税は、原則的にはキャッシュで一括

相続税に限った話ではありませんが、国税として税務署に納める税金は、原則として現金による一括納付です。税額によっては負担が多いこともあるため、相続税以外には前もって翌年分の一部を予定で納める制度もあります。ただ、相続はいつ起こるのかわからないので、予定が立てられません。そこで、一括納付を原則としながらも、それが困難な場合には、最長で20年の分割払いである延納と、現物で納める物納も認められています。

「延納」で控除される「生活費」は、税務署が決める!?

延納は分割払いであることから、とりあえず時間稼ぎが可能になります。相続税の納税を税務署からの借金と考えるなら、毎年の所得の中から年1回、年賦の形でその借金を分割返済することと考えられます。その意味では一時期にまとまった資金が不要で、毎年の資金繰りは計算ができると言ってもいいでしょう。また、返済の途中で何らかの臨時的な収入があれば、手数料なしで繰り上げ返済も可能です。

ただ、どれ位の金額が延納できるのか、自分で勝手に決められるわけではありません。延納の申請書類のひとつに『金銭納付を困難とする理由書』というものがあり、これに則って計算をすることになります(図1参照)。これは相続財産としてどのような財産を相続したのか、また、納税する本人の預貯金がどれ程あるのか、さらには生活費としてどの程度かかるのか等々の計算をさせるものです。この計算によって1年分の所得から生活費その他必要な金額を控除した残額は、基本的にはできる限り納税に充てなさい、という考え方なのです。しかも驚くべきは、ぜいたくな生活は許されず、生活費として控除される金額は税務署に決められてしまっています。もちろん、実際の生活費についてまで、税務署が口をはさむわけではありません。ただ、計算上はひと月に本人分は10万円、親族は4万5,000円が生活費なのです。まさに爪に火を灯す生活を強いられる計算式になっているのです。

また、延納は分割返済なので、当然ながら利息が必要です。その金利ですが、相続財産の内に占める不動産等の割合や市場金利の状況、延納期間等によって異なります。ただ、総じて言えることは銀行で借り入れる場合よりは割高なため、銀行で借り入れができればその方がお得です。また、担保が必要なことは銀行の場合と同様です。

延納はとにかく毎年決まった時期に相応の返済が要求される納税方法です。つまり、そのために毎年その返済原資が作れるということが必要なのです。安易な計画を立てると、途中でとん挫し不動産等を手放さなければならないこともあり得るのです。

なお、延納期間や延納にかかる利子税の割合は下記図2の通りです。

※この表の「特例割合」は、平成30年1月1日現在の「延納特例基準割合」1.6%で計算しています。なお、この「延納特例基準割合」とは、銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基に財務大臣が告示する割合から算出するもので、延納特例基準割合の変更があった場合には、この表の「特例割合」も変動します。延納申請に際しては所轄税務署でご確認ください。

元利均等と元金均等

延納で最も気を付けなければならないのは、返済方法が元利均等ではなく、“元金均等”であることでしょう。元利均等払いというのは、住宅ローンの返済が典型的ですが、毎月の返済額が同一というものです。返済額というのは、借入金の元金部分とその利息から成り立っています。返済額自体は同額でも、その元金の金額と利息の金額それぞれの金額は毎月異なるのです。元利合計で毎月同額の場合、返済する側は資金計画も立てやすいのが最大のメリットでしょう。

ところが延納は“元金均等”払いで、毎年返済する元金の部分が同額なのです。つまり、利息部分との合計額は毎年違う計算です。これの何が問題かというと、1,000万円を10年で元金均等で返済する場合を例に考えてみましょう。利息を便宜上簡単に10%とします。初年度の返済は元本が1,000万円÷10年で100万円、利息は1,000万円×10%で100万円となり、元利合計で200万円となります。同様に2年目は元金が前年と同額で100万円、利息は(1,000万円-100万円)×10%で90万円となり、元利合計で190万円の計算です。そして後半部分は元金がどんどん減っていくため、ほとんど利息もなく極端に言えば元金が大半ということになるでしょう。

一方もしこれを元利均等にすると、1回当たりの返済額は毎回同額の100数十万でしょう。そして、初期の頃は元金の返済はほとんどなく、大半が利息だけということになります。どちらが良いとか悪いとかではありませんが、元金均等返済は当初は負担が非常に重く、後半がラク。元利均等なら負担は平準化するということなのです。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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