土地資産家のための税務講座

相続における広大地評価の大改正!

相続税に関心のある方なら、『広大地』という言葉をご存じの方も多いと思います。
読んで字のごとく面積の広い土地のことですが、一定の条件に当てはまると原則的な評価額から大幅な減額ができる特例が用意されているのです。
実は、この特例の適否については実務上判然とした指標がなく、税務当局との間で判定をめぐってたびたび問題となることも多かったのです。
その改正案が平成29年6月に国税庁より発表されました。
面積や所在地要件を満たせば対象になりやすくはなったのですが、減額幅は大幅ダウン。
今後の対応策を探ってみました。

現行広大地の基本的な考え方

まず現在はどのような条件の場合にこの“広大地”が認められているのでしょうか。ちょっと専門的になりますが、財産評価基本通達という評価のルールブックには次のような規定しかないのです。
『その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で…(中略)…開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(…中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの…を除く)』このルールブックのほか、いくつかの指針を基にあえて非常に平たく言うと、その地域における標準的な区画割の面積より広大で、 ①マンションの適地や大規模工場用地に該当しないこと、 ②開発に際し、開発道路が必要な土地、と一般的には言われています。

ここで開発道路とは、図1のように約950㎡の宅地分譲をするにあたり、真ん中に入れる道路のことです。宅地とするからには、最低でも道路に2m以上接することが条件です。この開発道路を作ることにより、すべての宅地が道路に接したすっきりした形になるわけです。場合によっては市の条例や指導指針で、道路だけではなく公園や緑地を設けることまで必要とするケースもあるでしょう。そうすると、その部分は分譲できず、有効な宅地として活用できないため、評価の対象からはずす必要があるのです。それを考慮して、開発道路が必要な場合には、その土地の原則的な評価額から大幅な減額を認めようというのが、広大地の特例なのです。

従って、この特例の適用を受けようとする場合、開発行為が前提となるため、各自治体が定める技術基準や負担金を定めた『開発要綱』に準拠していることを証明する必要があります。そのため、申告書には図1のような開発する場合の想定図を添付し、税務署に理解を求めることが必要なのです。

なお、マンション適地や大規模工場用地については、そもそも上記のような“つぶれ地”が生じないため、広大地の考え方から除外されているのです。

さて、土地を評価する場合、原則としては路線価に面積を乗じて評価額を算出します。ただ、広大地に該当した場合には、その面積については実際の面積に応じて、表1のような補正計算をおこなうのです。従って、例えばその土地の面積が1,000㎡なら、補正率が0.55なので評価額は原則の45%引き相当額に。5,000㎡なら補正率が0.35なので何と原則の65%引きの評価となるわけです。

広大地評価の問題点

この評価方法、広大地と認定さえできれば計算自体は容易です。しかし、そもそもその土地が広大地に該当するのか、はたまた広大地には該当しないのかの判断は非常に難しいのです。これについて、前述のルールブック以外にもいくつかの指針が当局から示されてはいます。しかし、誰が見てもこの条件を満たしているから広大地に該当するという客観的な判断基準がないのです。だからこそ、冒頭にも書いたように税務当局との間でその判定をめぐって問題になることが多いのです。

図2をご覧ください。これはある相続税の事案で、こちらが申告したものに対する税務署の対案なのです。実は図1の区画割で広大地として申告したのですが、税務署は図2の様な区画割にすれば広大地にならないとして、否認してきたのです。図の1と2を比較した場合、多くの方は図1のような区画割の方が、すべての区画が道路に接し、いたって自然な住宅地になると判断なさるのではないでしょうか。

しかし、税務署は図2のように旗竿敷地にすれば、開発道路を入れなくても区画割りができるとして否認をしてきたのです。旗竿地のような使い勝手の悪い土地にすれば、確かに開発道路は不要です。しかし、不動産的な観点からして、図1と図2のどちらが全体として価値があり、より自然でしょうか。町全体の優れた景観が保てるでしょうか。最終的には図1が認められたものの、税務当局には時としてかなり強引に広大地を否認しようとする姿勢が見られます。

その典型的な事例が図3で、東京高裁にまで上がった訴訟事案です。あくまでも私見ですが、このような税務署の不自然な区画割を認めた裁判官に、不動産の活用実態がわかっているのか、甚だ疑問です。なぜなら、 ⑤の土地は何と道路から奥行42mもの土地になっているからです。また、 ③の土地も④の土地も、現実に利用が可能なのでしょうか。

税理士。昭和27年生まれ。早稲田大学教育学部卒。税理士法人エーティーオー財産相談室代表社員。国税専門官として税務調査を10年強経験後アーンスト&ヤング会計事務所、タクトコンサルティングを経て独立。経験を生かした資産税のスペシャリストとして活躍中。著書に『相続に強い税理士になるための教科書』『相続財産は法人化で残しなさい』『円満な相続の本』など。

税理士法人ATO財産相談室

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