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株式会社チームネット 代表取締役 甲斐 徹郎氏株式会社チームネット 代表取締役 甲斐 徹郎氏

レッツプラザ2019年6月号

理想の住まいと暮らしに寄り添う快適な環境と良好なコミュニティ
個人では味わえない豊かさをみんなで手に入れる「コミュニティベネフィット」という考え方

世田谷に森をつくって暮らそう――そんな夢のようなアイデアを実現した「経堂の杜」は、そのコンセプトに賛同した家族が集まって、計画段階から関わって建設される「コーポラティブハウス」と呼ばれる集合住宅。すでにそこにあった環境を建物内部に取り込み、季節の移ろいを肌で感じながら送る日々の暮らしは、豊かな自然の恵みと彩りに満ちています。

そんな「経堂の杜」の一居住者にして、その企画・コーディネートを担った株式会社チームネット代表取締役の甲斐徹郎氏を現地に訪ね、「環境共生」や「コミュニティ」といったコンセプトを住まいに取り込むことの意義についてお話を伺いました。

東京・世田谷の真ん中で採れたてのハチミツを

地上3階・地下1階のここ「経堂の杜」には、現在12世帯が暮らしています。樹齢150年の5本のケヤキに北面を守られた建物の屋上には、土を30㎝ほど盛った畑があって、住人たちが野菜や果物を育てていますが、その一角でミツバチも飼育していて去年はハチミツが70㎏も採れたんです。採蜜の時はお茶会を開いて、住人みんなで採れたてのおいしいハチミツを味わいました。世田谷の住宅街の真ん中でそんな暮らしができるなんて、普通は想像もできませんよね。

「経堂の杜」は、太陽の熱や光、風、夜の冷気などを住まいに取り込み室内環境を快適化する「パッシブデザイン」という手法を採用しています。環境共生を考えるうえで大事なことは、建物が先ではなく、それを包み込む大きな環境から発想することです。事実、樹木が1本あるだけで、その周囲の局所的な気候が明らかに変わりますが、この“微気候”を意図的に作り出して上手に室内に取り込むことで、例えば私の自宅は夏場でもクーラーなしで快適に過ごせたりします。

かつて住宅関連のコンサルティングに従事していた私が90年代初頭にエコロジー住宅の視察のために訪ねたヨーロッパでは、断熱性や気密性といったハードウェアの話はすでにクリアしていて、例えばスウェーデンでは幼稚園を中心に戸建住宅が建てられ、夜はその幼稚園がバーに変わって住民たちが集うエコビレッジなど、環境とコミュニティが調和した暮らし方そのものを探求する段階まで進んでいました。それは私にとって物の見方ががらりと転換するような体験で、住まいは単なるハードとしての箱ではなく環境そのものであり、さらにその環境を共有している人々のコミュニティそのものだということに気づかされたんです。

私は「環境共生」というコンセプトを具現化する会社を興し、最初に環境共生的な暮らしを追求する自分の住まいをつくろうと決めました。しかし、都心で緑豊かな環境を手に入れるためには、相当なお金もかかります。そこで着目したのが、個人ではなく他の人たちと一緒に集合住宅をつくる「コーポラティブハウス」という形態や、建物譲渡特約付の長期の借地権を活用するスキームです。こうしたスキームを前提に当時主催していた「エコロジー住宅市民学校」の卒業生たちと、「世田谷に森をつくって暮らす」というコンセプトをまとめ、本格的に土地探しなどを進め始めた矢先、たまたま仲間を通じて出会ったのが、相続問題で悩まれていた世田谷の地主の方だったのです。

もともとケヤキや桜などの屋敷林があったその方の所有地は、すでに半分が処分さることに決まっていて、残った土地も木をすべて伐採してアパートを建てる予定でした。そこで私たちが建物譲渡特約付のコーポラティブハウスを提案したところ、最初は定期借地権事業にあまり乗り気でなかった地主さんも、そこに昔からある木を切らずに残したいという我々の申し出にとても興味を持ってくれて、それを機に話が進み「経堂の杜」が実現することになったのです。

いわば、もとの環境を活かしながらきちんと収益化できるスキームを構築できたことが、このプロジェクトの最大の成功要因だったと思います。来年で竣工から20年になりますが、素晴らしい環境を共有する良好なコミュニティが育まれ、それが継続していくことで環境そのものが守られています。「経堂の杜」があったから移り住んできた、という近隣の方も多くて、そんなご近所さんも一緒にガーデニングクラブなどもやっていますが、そういう意味で、環境共生という枠組みは不動産の資産価値を大きく高めているのです。

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