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株式会社 青木茂建築工房 代表取締役 青木 茂 氏株式会社 青木茂建築工房 代表取締役 青木 茂 氏

レッツプラザ2014年6月号

優先順位は「強→用→美」
今、求められる建築のあり方

古代ローマの建築家・ウィトルウィウスはその著書の中で、建築には「用(用途、機能性)」、「強(強度、安全性)」、「美(美観、デザイン性)」が求められると言っています。もしこの3つの要素に、現在の日本の状況に照らして優先順位を付けるとすれば、私は「強→用→美」という順番になると思っています。

リフォームやリノベーションにはない、リファイニング建築を特徴づける重要なポイントとして「耐震性能の向上」を挙げたように、こと世界有数の地震国である日本においては、安全性、つまり大きな技術的責任を伴う「強」こそ、建築物に求められる最優先事項でしょう。

まず何よりも安全第一。これをしっかり満たしたうえで、建物が機能的かどうか、さらに美しいか、という順番でコストをかけていく。あくまで、デザインは安全と機能が満たされたうえでのテーマだということを持論にしています。

住宅にかけるコストを低減し、
個々の生活文化を豊かにできる

平成13年に、それまで手がけてきた一連のリファイニング建築で、権威ある日本建築学会賞の業績賞をいただいて以来、ご依頼やご相談も徐々に増え、最近ではテレビや雑誌などから取材される機会も増えてきました。ここにきてリファイニング建築が注目されている理由のひとつには、まず個人のレベルで「資源には限りがある」というエコロジーの意識が高まってきたことが挙げられるでしょう。これからのあるべき社会を見据えた時に、古いものを壊して新しいものを建てる“スクラップ&ビルド”という手法が本当にいいのだろうか、という疑問は、いまや多くの人々の間で共有されています。

また、個人という観点からリファイニング建築を考えると、「コスト低減」というメリットが暮らしに及ぼす影響も見逃せません。持ち家か賃貸かを問わず、日本人は生涯収入のおよそ3分の1を住居に費やしているといわれています。これがもっぱら古い建物を利用し続けるヨーロッパになると約10分の1になる。日本だと仮に家を建てたとしても一代限りで、次世代ではまた建て替えますから、結局、住宅ローンに追われる生活になるわけです。

これに対して、従来のストックを活用して低コストで家を建てること活用して低コストで家を建てることができれば、そこで浮いた住宅関連費は可処分所得として、いろいろなものに使えますよね。おいしい食事や旅行、趣味などにかけられるお金が増える。つまり、私たちの生活をより豊かに変えていけることもまた、リファイニング建築がもたらす恩恵のひとつだと思います。

リファイニング建築によって
長期的に維持できる価値を

このように環境や個人の暮らしにも良い影響もたらすリファイニング建築は、社会全体への波及効果が大きい手法です。資産経営の観点からも資産価値を上げ、収益性向上に寄与するだけでなく、社会的な貢献も期待できる資産再生手法といえるでしょう。

私自身としては、これまでリファイニング建築で実践してきたように、今後も技術に立脚した建築デザインのあり方をさらに深く追究していきたいと考えています。そうしたアプローチから生み出されるデザインは、表層的にカッコいいだけの“消費されるデザイン”では決してないはずです。

そういう意味で、単に外観だけでなく構造躯体や耐震性といった技術領域まで踏み込んで改善を図るリファイニング建築は、建物としての資産価値も長期的に維持していけるわけですから、これからの建物の老朽化対策としてひとつの選択肢となるのではないでしょうか。

事例紹介

※本記事は2014年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

青木 茂 氏
株式会社 青木茂建築工房
代表取締役 青木 茂 氏
(株)青木茂建築工房 代表取締役。一級建築士、博士(東京大学工学)。首都大学東京特任教授。大連理工大学客員教授。リファイニング建築を提唱し、共同住宅をはじめ公共建築や事務所ビルなど数多くの再生建築を手がける。著書に「団地をリファイニングしよう」「長寿命建築へ」「REFINING CITY×SMART CITY」「住む人のための建築再生」「リファイニングが導く公共建築の未来」「長寿命建築のつくりかた いつまでも美しく使えるリノベーション」など多数。

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